妹尾輝男(コーン・フェリー・ジャパン会長),鬼塚忠(作家エージェンシー代表)
《世界52か国に現地法人を持ち、グローバル企業の幹部を中心にリクルーティングする、世界最大のヘッドハンティング会社「コーン・フェリー」日本法人の代表取締役を昨年8月まで務め、その後も会長職につきながら会社の中枢として活躍している妹尾輝男氏。
本稿では、そんな妹尾輝男氏に、作家エージェントで、かつ自身も『花戦さ』などのヒット作品の著者でもある鬼塚忠さんが、このコロナ禍が去った後、世界はどう変わり、企業から求められる人材はどう変わるかを聞いた》
自分の会社と顧客を往復するビジネス慣習は消滅する
鬼塚忠氏(左)と妹尾輝男氏
(鬼塚)妹尾さん、このコロナ禍で、日本と言わず、全世界はあっという間に変わりましたね。ビジネスに与える損害は甚大です。社会だけでなく、ビジネスを取り巻く環境も大きく変わると思います。どんなふうに変わると思いますか。
(妹尾)今回の新型コロナ騒動は、一過性の現象ではありません。過去、ベルリンの壁の崩壊、リーマンショック、9.11世界同時多発テロが、世界を後戻りできないものに変えました。今回の新型コロナ禍もそれらと同じく、いや、もっと強烈に世界を全く新しいものに変えるでしょう。
具体的に言えば、今まで、世界中のヒト・モノ・カネ・情報がグローバル化に向かっていました。その動きに急ブレーキがかかり、逆戻りします。
そして、テクノロジーへの依存度がますます高くなります。それに伴い、働き方にも大きな変化が現れるでしょう。
(鬼塚)働き方に大きな変化があるのですね。どのように変わるのですか?
(妹尾)まずは、外出自粛と在宅勤務があげられます。もし、欧米諸国のように、都市封鎖が本格的に施行されたら、通勤は全面的に禁止され、在宅勤務以外の働き方はなくなります。
在宅勤務体制にいまだに移行できない企業は、次第に淘汰されていきます。あらゆる分野で変化を見越し、テクノロジーを活用し、素早く実行に移すリーダーと、それを支える体制を持たない組織はさらにどんどん淘汰されていくことになります。
このことは働く人にとっては、職場の概念が大きく変わることを意味します。もはや会社やお客さんの所を行ったり来たりして仕事をする慣習は消滅し、いつでも、どこでも、だれとでも仕事をするのが当たり前とされ、「勤務時間」という概念もなくなり、通勤時間や移動時間がセーブされると同時に「時間外手当」などは当然なくなります。
職場環境を変えないまま「働く時間を短くしよう」というような従来の「働き方改革」は死語と化します。
「机を並べて仕事をする」風景はセピア色の思い出になる
(鬼塚)その変化に、数ある日本企業の多くが対応できるとは思えません。そういった企業は生き延びられないのでしょうか。私たちの仕事はどう変わりますか?
(妹尾)生き延びるのは難しいでしょうね。私たちの仕事ですが、例えば、一堂に会してする「会議」は職場から一掃されます。いま思えば、あれは儀式のようなものでした。
上司も部下も各自の居場所で必要に応じて連絡を取りあうことになります。そうなると、上司や同僚から連絡が来るか来ないかが、その人にとっての死活問題となります。
仮に正社員であっても連絡が来なければ仕事はありません。逆に、フリーランサーであっても連絡がどんどん入ってくる人は、正社員以上に存在感が出て来ます。「仕事ができる人」の基準がものすごくはっきりしてきます。
働く側からすれば、自分の強みややる気を大いにアピールすることも重要になってくるでしょう。現状では、ほとんどの日本人が転職に際して面接等で自分を売り込むことを苦手としています。
しかし、コロナ後の世界では、そんな「恥ずかしがり屋です」なんて言っていては生き延びることはできません。やる気を見せ、結果を出さなければなりません。
(鬼塚)部下から見れば、やる気を見せ、仕事をもらうように信頼され、結果を出す。まるで個々人がフリーランスのようですね。では上司の働き方はどう変わるのでしょうか?
(妹尾)仕事とは本来、いい仕事をして、結果を出して、周囲から評価される、そういうものです。上司との付き合いとか、ゴマスリで評価されるべきではない。
いま上司から連絡を受けるかどうかが部下の死活問題になると言いましたが、上司の仕事に関して言えば、的確な人選をして、タイミングよく連絡をして、その人に明確な指示を出すことができる、ということがその人の死活問題となってきます。
また、連絡を受けた部下にその仕事を快諾してもらえるような人間的な魅力も、上司にとっての死活問題となってきます。いくら肩書きが立派でも、上手に人を集めてプロジェクトを走らせることができない上司は、だんだんと影が薄くなって首をすげ替えられます。
みんなが机を並べて仕事していて、目の前の人に気楽に仕事を頼む、というような牧歌的な風景は、もはやセピア色の写真ように、懐かしい昔の時代の思い出に変わっていくでしょう。
幹部候補となる人材の要件が急変する
(鬼塚)部下であっても、上司であっても、今から大きく変わる社会にどう順応するかが、これから生き残る鍵ですね。
(妹尾)まさにその通りです。また、在宅勤務とテクノロジーの普及によって、会社は社員の副業を禁止することが実質的に困難になります。
意欲的な社員は会社に属しながらどんどん副業をしたり、企業内起業をしたり、ジョイントベンチャーを立ち上げたりして、正社員でありながらフリーランサーのようなメンタリティーに変化していきます。
会社にしても、優秀な社員をある程度泳がせて、新規ビジネスの種を蒔かせたり、新しいネットワークを築かせたりしないと、会社自体の競争力が弱まってしまうのです。
医療関係、公共事業、非営利事業等には当てはまらないかもしれませんが、典型的な利益追求型メーカーやマーケティング会社において、社員は大きく分けて、クリエイター、アーティスト型の役割と、プロデユーサー、マネージャー、コーディネーター型の役割とに2分され、それぞれの労働市場が形成されていきます。
企業は必要な付加価値を出してくれそうな社員を採用、育成、維持するように努力し、一方、優秀な社員はよりよいインフラ、マネージメント、コーディネーションを提供してくれるような企業を選んで雇用契約を結ぶようになります。
個人も企業も様々な評価基準でお互いを評価・採点するようになっていきます。企業の評価に際しては、従来の財務指標に加えて、社員のエンゲージメントのような人的な要素、ソフトな要素も含まれるようになっていきます。
私たちコーン・フェリーもまた、幹部候補とされる人材の見方を変えなければいけません。依頼された企業の社内、社外を問わず、社会の変化を理解し、その変化に対応できる人材を探し出し、企業の幹部とし登用させなくてはいけません。
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