緑茶のカテキンに、感染症予防の力あり
5月の八十八夜に摘んだ緑茶を飲むと、「無病息災で長生きできる」という言い伝えを聞いたことがあるだろうか。八十八夜は、立春から数えて88日目を指し、2020年なら5月1日だ。
イギリスでは紅茶が、中国の一部や台湾では烏龍茶が飲まれてきたが、日本ではおよそ800年も前から緑茶が好まれてきた。意外に思う人もいるかもしれないが、紅茶も烏龍茶も緑茶も、すべて同じ「茶の木」から作られている。作り方(製法)が異なるために、色、味、香りが変化するのだ。お茶を研究して50年以上、“お茶博士”として著名な大妻女子大学名誉教授の大森正司氏が「緑茶は茶葉が未発酵の状態、烏龍茶は半分発酵、紅茶は完全に発酵したもの」と話す。
「健康成分であるカテキン、アミノ酸、カフェインは3つのどの茶にも含まれますが、入れ方や製法によりその含有量が左右されます。茶は発酵させるほどカテキンが減っていきます。ですから茶の中で比較すると、カテキン含有量は緑茶>烏龍茶>紅茶となる」
緑茶にたっぷり含まれるカテキンには、大きく2つの健康効果がある。1つは、カテキンはポリフェノールの一種で、ビタミンCの80倍ともいわれる抗酸化作用をもつ。血圧を上昇させる物質・アンジオテンシンIIを産生する酵素の働きを抑制し、血圧の上昇を防ぐことが明らかで、発がん物質を抑制するともいわれている。
カテキンのもう1つの健康効果は、強力な殺菌作用だ。
「カテキンは、ウイルスと細胞の結合を阻止して感染症を予防します。ほかにも虫歯や口臭を予防し、アレルギー症状を緩和します」(大森氏)
これからの時期に発症が増えてくる「食中毒」の予防にもなる
管理栄養士の望月理恵子氏によると、これからの時期に発症が増えてくる「食中毒」の予防にもなるという。
「病原性大腸菌O157を生理食塩水と緑茶で培養した実験で、生理食塩水では24時間後、菌の数が約1000倍になったのに対し、緑茶のほうは5時間後にはO157が完全に死滅したという報告があります。カテキンがO157の細胞膜を破壊したのではないかと考えられます」
料理に粉茶を振りかけたり、スープに緑茶を隠し味として入れてもいいだろう。「刺し身などの生ものを食べた後に緑茶を飲むことも食中毒予防になる」(大森氏)という。
糖尿病や肥満の予防にも有効だ。
「カテキンを摂取すると、糖質を食べても消化されずに体外へ排出されやすくなります」(同)
カテキンは体を構成する成分ではないため、体内では異物として認識され、排出されやすい。体内にとどまるのは3~4時間という。健康効果を得るためには毎食後などこまめに摂取を。
さて、緑茶に含まれるカテキン以外の、アミノ酸(テアニン)とカフェインにも注目しよう。ここが重要なのだが、テアニンにはリラックス作用、カフェインには覚醒作用と、相反する効果がある。入れ方や緑茶の種類によってそれぞれが多くも少なくもなるため、目的によって使い分けるといい。
まず熱湯で緑茶を入れるとカテキンやカフェインが増加する。反対に、水かぬるま湯で入れると、カテキンとカフェインが少なくなり、うまみ成分であるアミノ酸が多く抽出される。
「緑茶には20種類以上のアミノ酸が含まれ、全体量の5~6割を占めるのがテアニンです。脳はリラックスしているときにα波(脳波)を出しますが、最近の研究ではテアニンを摂取すると、α波が出現する回数や時間が増加することがわかりました。ストレス軽減作用があるといえるでしょう」(同)
また緑茶の種類によっても差が出る。一般的には5月に収穫される「一番茶(新茶)」で製造されたものが「煎茶」や「玉露」に、5月以降に摘まれる「二番茶」(6月中旬)、「三番茶」(7月下旬)などを使って製造されるものが「番茶」とされる。
「茶葉に含まれるテアニンは太陽光を多く浴びると、渋みに影響するカテキンに変化する。そのため一番茶より二番茶、二番茶より三番茶のほうがカテキンが多い」(大森氏)
なんと緑茶としての評価が低い三番茶、つまり番茶が健康成分のカテキンが多く含まれるのだった。
緑茶を摂取する量が多くなるほどリスクが低下
国立がん研究センターでは、緑茶を日常的に飲む人は飲まない人に比べて、全死亡リスクが低下するという研究結果を発表した。長年緑茶の効能を研究してきた静岡県立大学薬学部の山田浩教授によると「特に男性では呼吸器疾患、女性では心疾患において、緑茶を摂取する量が多くなるほどリスクが低下している」という。
それでは、たくさん飲んでも体に害はないのだろうか。
緑茶の成分の中で多量摂取の悪影響が心配されるのは、カフェイン。覚醒作用のあるカフェインは睡眠を妨げる可能性があるという。
「カフェインの作用は8~14時間持続するといわれ、睡眠中の中途覚醒を増やすリスクがある」(望月氏)
しかしカフェインは“悪者”ではない。眠気を防いで脳の働きを活発にし、二日酔いのときは頭をスッキリさせるといわれる。ダイエットするならカフェインを取ってから運動すると、効率よく脂肪が燃焼するだろう。
大森氏は「つまりは過剰摂取にならなければOK。目安として一日におよそ10杯、1時間以内に4~5杯の茶を飲んだ場合、体調が悪くなることがあるかもしれません」とアドバイスする。
むやみにカフェインを避けるより、夕方以降はカフェイン量を増やさない水かぬるま湯で緑茶を入れるなど、賢く活用しよう。
“栄養素の宝庫”といわれる緑茶には、カテキン、カフェイン、テアニン以外にもビタミンCやE、食物繊維などさまざまな健康成分が含まれる。
ちなみにメラニン色素の生成を抑え、シミを作りにくくするビタミンCは、煎茶に最も多く含まれる。ビタミンCは熱で壊れやすいが、緑茶の場合はカテキンによってビタミンCが守られ、熱湯で入れても破壊されないのだ。
「ただしβカロテン、ビタミンE、コエンザイムQ10、ミネラル類、不溶性(水に溶けない)食物繊維などはどんなに熱湯を注いでも溶け出しません。栄養素を余すことなく摂取するには茶葉ごと食べるのがいい」(同)
粉末状になっている緑茶も市販されているし、緑茶を入れたあとの茶殻に味付けをして酒のつまみなどとしていただいても◎。
いずれにしても湯のみ一杯でさまざまな健康効果を得られる緑茶は、高額なサプリメントや健康食品よりお得といえるかもしれない。
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