日本人が手本にすべき「台湾の新しい生活様式」6つの方針 コロナ優等生の台湾はもう平常運転

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私たち日本人が「コロナの優等生」から学ぶべきこと

台湾・衛生福利部のFacebookより

台湾・衛生福利部のFacebookより

2020年4月14日、台湾のランドマーク的存在である「圓山大飯店(グランドホテル)」の建物正面に「ZERO」の文字が大きくライトアップされた。このゼロが示すのは、この日、台湾における新たな新型コロナウイルス感染確認が0人だったということだ。新規の感染者ゼロは3月9日以来のこと。圓山大飯店のライトアップのニュースは、早くから「コロナの優等生」と言われていた台湾の感染拡大防止策が確かに実を結んでいることが世界に知らしめた。ちなみに日本はこの2日後の16日に緊急事態宣言が全国に拡大され、国民のコロナとの戦いが本格化。自粛の嵐が始まった。振り返ると、緊急事態宣言は現場の準備が整う前に行われ、混乱と模索のなかで解除を迎えたように感じられる。

さて、その後、台湾では感染拡大が抑えられたことから、4月30日に中央感染症指揮センター(新型肺炎対策本部に相当)より「防疫新生活運動」の呼びかけが行われた。これは、新型コロナウイルスへの警戒を引き続き行いながら新しい生活様式を模索する運動だ。最近、日本のニュースでよく見かける「ウィズコロナ」に近いと考えてよいだろう。

一足早くウィズコロナを実践している台湾に、私たちが学ぶべき点はあるのだろうか。

2019年12月にはコロナを警戒、天才IT大臣も活躍

まずは「コロナの優等生」と呼ばれる台湾の主な新型コロナ対策とその背景を振り返ってみたい。中国・武漢で謎の新型肺炎の症例が確認されたのは2019年11月ごろだと言われている。12月には台湾政府は謎の新型肺炎に対し警戒を強めていた。そして12月31日、武漢市が原因不明の肺炎感染者を公表したその日のうちに、台湾は武漢からの直行便による入境者に対し検疫を強化。さらに、同じく年末に陳時中・衛生福利部長(日本の厚生労働大臣に相当)がWHO(世界保健機構)に対し「武漢で新型肺炎が発生し、7名が隔離治療を受けている」とメールを送り、この時点ですでに新型肺炎が「人から人へ感染する可能性」を示唆したうえで警戒を呼びかけていたのだ。

年明けの2020年1月4日には台湾の感染拡大防止策のブレーンとなる「専門家グループ」が結成される。このグループでは台湾の感染症分野におけるほとんどすべての専門家が加入したそうだ。そして1月20日に新型コロナウイルスの対策本部にあたる中央感染症指揮センターが設立。台湾における初の新型コロナウイルス感染者が確認される1月21日までに、ここまでの準備と対策が行われていた。

その後、早期の外国人入境禁止措置、海外渡航者への徹底した隔離措置、また日本でも話題となった天才IT大臣こと唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当政務委員(大臣)らによる「マスク管理マップ」など打ち立て、市民も感染拡大防止策に応じていった。

迅速対応の背景に、SARS流行時の苦い経験

これらの迅速な対応が行われた背景の1つに、2003年に香港や台湾で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の経験が挙げられる。台湾におけるSARSの感染爆発の契機は、病院での院内感染である。院内感染がわかると病院は封鎖、医療従事者と患者、そしてその家族ら1000人以上が院内に閉じ込められ、パニックとなった。この出来事は当時、台湾に住んでいた人にとって凄惨せいさんな記憶として残っているという。この経験から市民には感染症への警戒心が根付いていた。

また、SARSの流行において台湾は収束が最も遅れた地域だった。当時、台湾政府はWHOから適切な時期に重要な情報を得ることができず、封じ込めに苦戦。また中央と自治体の連携がうまくいかなかったのもSARS収束が遅れた原因の1つだと言われている。その苦い経験から、台湾は新型コロナウイルスの封じ込めにおいて早くから独自の徹底した感染拡大防止策をとり、「防疫視同作戦(感染拡大防止の重要性を軍事作戦と同等とみなす)」という強い方針を打ち立てていたのである。

6つの方針を軸に、台湾的「ウィズコロナ」生活

そして2020年6月7日、海外渡航歴がある人を除いた新規の感染者ゼロの状態が8週間(潜伏期間14日の4回分に相当)続いたことから、各種制限が大幅に緩和された。これまで義務付けられていた公共交通機関でのマスク着用義務を乗客同士の距離が保たれていることを条件に解除、イベント開催において「実名制」、もしくは「実聯制(感染者が出た場合、その場にいた人に連絡がつくようにすること)」をとり、かつ手洗いやソーシャルディスタンスの確保が行われている場合、入場制限を撤廃するなどだ。

そして6月10日には、卓球の元日本代表・福原愛さんの夫で卓球選手の江宏傑さんをPR大使に迎え、改めて「防疫新生活運動」を提唱した。台湾的ウィズコロナだ。感染拡大防止に努めながら日常生活を送るために、PRポスターでは次の6つの方針が掲げられている。

・マスク着用の習慣化
・石鹸での手洗いの励行
・ソーシャルディスタンスの確保(屋内1.5メートル、屋外1メートル)
・外出の際は混雑しない時間帯を調べてから出かける
・屋内に入る際の検温に協力する
・飲食店のテーブルには飛沫防止パーテーションを設置

方針を見ると日本の厚生労働省が掲げる「新しい生活様式」と比較してそれほど変わった点はない。台湾では具体的にどのような「ウィズコロナ」の生活が送られているのだろうか?

「仕事も生活も、もう平常運転です」と話すのは、台湾のシリコンバレーと呼ばれる新竹市の会社員・陳さんだ。「コロナの前と変わったことと言えば、出勤時にマスクをつけ、会社の建物に入るときに検温と手洗いをするようになったこと。そして取引先への訪問が禁止となり、会議は社内のものも社外のものも全てSkypeになったことですね」という。

それらの変化も踏まえたうえで「平常運転」。ビフォーコロナの頃になかった習慣が、すでに日常に組み込まれているのだ。感染拡大防止に努めながらの日常に、ストレスや不便を感じることはなかったのだろうか。

陳さんは「会社は感染拡大防止のために奔走してくれたと思います」、そして「台湾での感染者のほとんどが国外で感染して帰って来た人たちです。彼らが14日の隔離措置をしっかり守ってくれたおかげで台湾の感染者は少なく抑えられたのだと思います。マスクをつけなければいけないのは不便ではありますが、これくらい大丈夫です」と話してくれた。

検温や書類にサイン…面倒な手続きにも協力的な台湾市民

台中市の会社員・呉さんも同様に話す。ただ呉さんの勤める会社は営業での企業回りを禁じてはいなかった。しかし会社訪問時に先方のオフィスには入れず、入口前に設けられたテーブルで商談を行うことがあったという。

どうしても先方のオフィスに入る必要があるときは、直近に海外渡航歴がないことや、健康状態を申告する「声明書」にサインしてはじめて屋内に入ることができるのだそう。もちろん検温も必要である。まるで入国時の検疫だ。日本で同様のことが求められたら、トラブルが起きそうなものである。

呉さんに拒否もしくは嫌がる人がいなかったか聞いてみたところ、「みんな協力的ですよ。確かに厳しいかもしれませんが、そこまでして初めて新型コロナウイルスを封じ込められるのだと思いますよ」とのことだった。生活で変わったことと言えば、マスクや手洗い以外だと、レジャー面で繁華街に遊びに行く人が減り、山登りなど郊外でのアクティビティがはやっていることが挙げられるそうだ。

「日本で『コロナ疲れ』が出るのはわかります。新型コロナウイルスはわからないことだらけで、疑心暗鬼になるのは無理のないことです」と言うのは日本での就労経験がある台北市在住の黄さんだ。そして台湾でコロナ疲れがなく、スムーズに新しい生活様式に入ったことについてこう話す。「台湾は、早い段階で海外からのウイルス侵入を防ぐことを重視していて、それが功を奏したことが大きかったと思います。そして中央感染症指揮センターからこまめな情報提供があったことで安心感がありました」

ユーモア交えた呼びかけに「台湾の政治家はイケてる!」の声

中央感染症指揮センターからの情報提供の仕方も好感が持てるものだったそうだ。

「よく覚えているのは、14日間の隔離対象者に対し『逃亡を防ぐために電子手錠をつけないのか』と質問が出たとき陳・衛生福利部長が「人は肉の塊ではない」とし、周りが思いやりを持つことで隔離者が安心して家にいられることを訴えたことです。また、ピンクのマスクをつけていた男の子がからかわれたという話があがると、陳部長ら幹部がピンク色のマスクをつけて会見に臨んだことも印象に残っています。『ピンクパンサーが好きだった、ピンクはいい色』と言って話題になり、Facebookはピンクパンサーやピンク色のマスクの投稿でいっぱいになりました。

政治家たちがFacebookで、たとえば自身をマスコットキャラみたいになってユーモアを交えて情報を発信してくれたのも良かったです。たとえばトイレットペーパーの買い占めが起きたときに行政院長(首相)がおしりを振ったイラストつきで『私たちのお尻はひとつだけ』と、必要以上のトイレットペーパーを購入をしないよう呼び掛けたりすることもありました。面白くてついシェアしてしまいますよね」

台湾政府、企業、市民一人ひとりが頑張った結果だ

黄さんは感染拡大防止の本丸である中央感染症指揮センターに親近感を持つことで、義務に対し「押しつけられた」ではなく「自ら協力する」という気持ちが強くなったように感じているそうだ。

黄さんだけでなく先述の2人も「中央指揮センターはよくやってくれた」「政府も企業も市民も一人ひとりが頑張った結果だと思う」と述べている。台湾メディア三立新聞によると5月に行われた世論調査では陳時中・衛生福利部長の支持率は94%を記録したと報じられている。

ここから見え隠れするのは社会に対する信頼感ではないだろうか。台湾はSARSの経験から、感染症対策に対し政府も市民も高い意識を持ち、適切なタイミングで適切な対策が講じられてきた。

日本の「平常運転」が待ち遠しい

だが今回、「コロナの優等生」と称されるほどの結果を得た要因は、SARSの教訓による具体的な対策の成果だけでなく、政府や企業など「感染拡大防止措置を講じる側」と、「市民」の信頼関係が早い段階で構築され、社会全体が一丸となって感染症との戦いに臨んでいた点も無視できないだろう。「感染拡大防止への協力は当然」という意識を継続して持つことで、穏やかなウィズコロナ時代を迎えようとしているのだ。私たちが今すぐ取り入れられることがあるとしたら、この点ではないだろうか。

日本では近年、国を震撼しんかんさせるほどの感染症流行はなく、そのため新型コロナウイルス流行の初期では戸惑いや混乱があり、政府の対応に不安の声が少なからず聞かれた。だが幸いなことに日本でも新型コロナ流行のピークは過ぎ、ウィズコロナ時代に入りつつある。「感染症との戦いは一人ひとりが協力し、社会全体で行うものだ」という意識をさらに生活に落とし込み、懸念される再流行に備えながら日常を取り戻していきたい。

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