ビットコインは価値の保存手段
米ダラス連邦準備銀行のRobert Kaplan総裁は、「ビットコイン(BTC)が現在、価値の保存手段になっていることは明らかだ」と、4月16日に開催されたビットコイン・カンフェレンスで発言した。
Kaplan氏は暗号資産(仮想通貨)ビットコインや、それを取り巻くブロックチェーンを始めとする技術は、まさにイノベーションを起こしていると指摘する一方で、ビットコインは価格変動が大きいことから、価値の交換手段としては普及するに至っていないと述べた。
米ハーバード大学ビジネススクールの教授を経て、2015年からダラス連銀総裁となったKaplan氏は、長年、ゴールドマン・サックス・グループの副会長を含む上級職を務めた経歴を持つ人物。2020年末まで、連邦準備理事会(FRB)における金融政策の最高意思決定機関である、連邦公開市場委員会(FOMC)の委員を務めていた。
テキサスA&M大学のMaysイノベーション・リサーチセンターが主催したカンフェレンスには、世界的ヘッジファンド創業者のRay Dalio氏をはじめ、著名投資家Tim Draper氏やMicroStrategy社のMichael Taylor CEOという錚々たるメンバーも登壇した。
米国のインフレ懸念について
米労働省労働統計局が、先週発表した3月の消費者物価指数は、前年比で2.6%上昇し、予測されていた2.5%を上回る結果となった(2月は1.7%)。FRBのPowell議長は、インフレ率の上昇は一時的なものであり、米国の低金利政策を転換するほど深刻ではないとの見方を示した。
Kaplan氏も同様の立場を取り、現在の米国におけるインフレの兆候は「需要と供給の不均衡」によるものだと述べた。「テクノロジーがもたらす破壊的変化や高齢化などの構造的な力が価格決定力を制限している」ことから、「価格調整が一時的なものなのか、持続的なものになるかの見極めが重要だ」と付け加えた。
物価動向はFRBの金融政策に大きく影響することから、仮想通貨投資家にとっても注目される指標となっている。昨年からのビットコイン価格の急騰は、新型コロナウィルスのパンデミック化の経済対策として、米国政府をはじめとする各国政府が、歴史的な金融刺激策を実行したことが大きく影響していたとみられる。
米ドルの価値低下を懸念する著名投資家や企業が、ビットコイン投資に相次いで参入し、その総価値は、現在125兆円を上回るまでに大きく拡大した。
CBDCについて
Kaplan氏は昨年11月、ブルームバーグ主催のオンライン会議で、「今後数ヶ月から数年のうちに」FRBがデジタル通貨(CBDC)の開発に着手することが極めて重要な動きとの認識を示した。
この度のカンフェレンスでも、CBDCに言及。米国のデジタルドルは、原資産となる通貨の価値と結びつく可能性が高いとし、「基軸通貨に縛られない価値の保存手段であるビットコインとは異なる議題だ」と述べた。
また、既に数々の実証実験を開始している中国の「デジタル人民元」導入については、「中国の実験は、基盤通貨の価値に結びついているが、場合によっては、資金の流れを監視するための手段だとも言えるだろう」と指摘した。
一方、PayPal共同創業者のPeter Thiel氏は4月6日に行われた、米ニクソン財団主催の国家安全保障に関するセミナーで、ビットコインの地政学的重要性を語るとともに、「中国国内のステーブルコインは、真の仮想通貨ではなく、統制の道具に過ぎない」と批判し個人的見解を示した。
米国の動き
米国におけるCBDCの開発について、Powell議長は2月、下院金融サービス委員会で2021年がデジタルドルプロジェクトにとって重要な年になると発言。デジタルドルに関する公開イベントなどを通して、「国民との対話」を積極的に行っていくと述べている。さらに、FRBには「立法上の承認」が必要だと政策立案者に訴えた。
時期を同じくして、FRBは「汎用的な中央銀行のデジタル通貨に関する前提条件」というレポートを発表し、CBDCの枠組みについて説明。
また、3月に議長は、バーゼル銀行監督委員会の会議でCBDCに関する取り組みと主要原則についてスピーチを行い、現金などの他の決済手段と共存する「柔軟で革新的な」システムとなることを目指すと述べた。
一方、米連銀の一つ、ボストン連邦準備銀行は、マサチューセッツ工科大学(MIT)と共同で、デジタルドルの基盤となる技術プラットフォームについて、ブロックチェーンを含む様々な技術を検討していることを明らかにしている。
Yellen米財務長官も、中央銀行が独自のデジタル通貨の発行を検討することは「理にかなっている」と述べ、CBDCを支持する立場だ。なお、ビットコインについては「非効率的な決済システム」であると評価した。