テスラ社が追い風になるか
テスラ社が15億ドル相当分、ビットコインを購入した報道を受け、他の企業も追随する可能性を指摘する声や、その投資判断を懸念する声など、様々な意見が金融業界関係者から見られている。
米電気自動車(EV)大手のテスラ社は8日、総額15億ドル(約1,550億円)相当のビットコインを購入したことを発表。S&P500に入る大手企業として初めてビットコインを企業資産(10%弱)に組み入れた事例で、金融界にも大きなインパクトを与えた。
テスラ社の動向を、仮想通貨業界の転機と見ているのが、ビットコインの支持者でもある米CNBCの金融番組Mad Moneyの大物司会者Jim Cramer氏だ。
同氏はCNBCの番組内で、テスラ社の事例を取りあげ、「もはや、企業がビットコインをバランスシートに入れないことが無責任になる。会計士は役員に対して一部の現金資産をビットコインに変えることを提案したほうがいいかもしれない」、「現金だけでは、価値など生まれなくなってきていることから、ビットコインは現金資産のオルタナティブになり得る」とコメントした。
以前、MicroStrategy社がビットコインを大量に購入した際にも、Cramer氏はその判断力を賞賛している。MicroStrategyはこれまで総額11.4億ドルを用いて、16,109ドルの平均購入価格で計71,079 BTCを購入しており、(テスラ社の具体的な平均購入価格は明らかではないが)現米国上場企業ではBTC保有数で1位を維持していると見られる。
実際に米国企業のビットコイン購入が続く可能性が指摘される理由には、法的・会計などの側面で不透明感が解消されつつある点のほか、大口資金でもマーケットを動かさずに購入できる前例が出てきている点など、追い風は強い。
コロナ禍で企業の準備資産戦略が変化し、金利などキャッシュフローを生み出さないビットコインも選択肢に入り始めている点も重要なポイントだ。
MicroStrategyのSaylor CEOも、テスラの購入発表後にブルームバーグTVに出演。「金融緩和が拡大する中で、最も希少な資産が望ましい。ビットコインは世界で最も希少なものだ」と話し、「我が社が仮にビットコインでなくゴールドを買っていたら、20億ドル(約2,000億円)もの損失が出ているだろう」と指摘した。ビットコインの投資で、現在の含み益は、+2,300億円(約3,500億円ー1,200億円)と試算されている。
また、「次にどのS&P500関連企業がビットコインを購入するか」について言及したナダに本拠を置く大手投資銀行RSB Capital Marketsの最新のレポートでは、アップル社が仮想通貨取引事業へ参入するメリットを試算。年間400億ドル(4.2兆円相当)を超える収益を上げる可能性があるとした。また、根強いソフトウェアエコシステムと普及基盤を持っているため、独自の取引所やウォレットを構築することは難しくないと見ているとした。
懸念する専門家も
テスラのビットコイン購入を支持する声が多く上げられていたが、その投資方針を懸念する有識者もいる。
ブルームバーグの報道によると、SECで経済学者を務めた経験を持つChester Spatt氏は、「ビットコインは非常に変動率が激しい資産だ。テスラのような投資方針を採用する企業が今後増えていく可能性は低いと見ている」と企業の追随には懐疑的な見方を示した。
一方で、「今後注目すべき点は、テスラが自動車の販売価格をビットコインで表示するかといったところだ」とコメントし、テスラ社が公表したビットコイン決済の受け付けに関する動向は注目ポイントとした。
メガバングのJPモルガンのストラテジストNikolaos Panigirtzoglou氏も、ボラティリティ(変動率)が普及の課題になると見ている。(ブルームバーグ参考)
多くの企業のポートフォリオは、現金や短期債券などボラティリティの低い資産に充てられているが、Panigirtzoglou氏は、「ビットコインを1%の財務資産に充てると、年間80%のボラティリティの計算では全体ポートフォリオのボラティリティを8%にあげることになり得る」と分析。企業資産がリスクに晒される点を懸念する株主なども出てくる可能性を指摘している。
一方、「今後他の企業がどのようにテスラの事例を踏まえ行動するかは別として、短期でビットコインの価格にポジティブな影響を与えている」とした。
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