“落胆モバイル”の三木谷社長に楽天の有能人材が絶望した – 有能な人間ほど辞めていく

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楽天モバイルは正直どうなのか

4月8日、第4のキャリアとして楽天モバイルが本格的なサービスを開始した。既存3キャリアの複雑で割高な料金プラン設定との明確な違いを打ち出すため、楽天モバイルは月額2980円でインターネット使い放題の1プランのみを用意。しかも先着300万人までは月額料金が1年間無料という大盤振る舞いである。
楽天モバイル公式HPより。

もっとも、ネットが使い放題なのは大都市の地上など、同社が自前で構築した回線網につながった場合のみ。地下鉄や地下街、地方部などでは提携しているKDDIの回線につながり、その場合は月間で5GBまでしか使えず、容量をオーバーした場合は通信速度が1秒当たり1Mbps(メガビット)まで低下する。

とはいえ、1メガビットの速度があれば動画の視聴も可能であり、楽天モバイルのプランがかなりの訴求力を持っていることは間違いない。だからこそサービス開始後、どれほどのユーザーを集められるかに注目が集まっていたのだが、スタート直前に想定外の荒波に巻き込まれてしまった。

 

悪すぎる初動、タイミングに完敗

もうお察しだろうが、コロナ禍の真っただ中での船出を強いられたのだ。結果、どうなったのか? ITジャーナリストの石川温氏が語る。

「テレビCMはばんばん流れているのに、4月6日から全国の楽天モバイルショップが感染拡大防止のため順次、臨時休業に入っています。その上、誰もが目の前の生活に手いっぱいで、携帯キャリア乗り換えの検討まではなかなか気が回らない。こうした状況でのサービス開始は、いかにもタイミングが悪かったですね。楽天モバイルの契約者数は3月下旬時点で20万台程度と言われています。『300万人までは月額料金1年間無料』の出血サービスまで打ち出していたことを考えると、かなり悪い初動と言わざるを得ません」(石川氏、以下同)

ただしつまずきはタイミングの悪さだけによるものではなく、サービス内容の根本的な問題に起因するところも少なくないようだ。

「楽天モバイルの待ち受け画面では、楽天モバイルの回線とつながっているのか、あるいはKDDIの回線なのかをユーザーが一目で把握することができず、わざわざアプリを立ち上げて調べなければなりません。使用のたびに確認するのは煩わしいのでこの作業を省略し、たぶん楽天モバイルの回線だろうと無制限のつもりで使っていたらじつはKDDI回線のエリアで、あっという間に5GBを使い切ってしまうということも考えられます」

動作保証されていない場合がほとんど

1カ月で5GBの容量はそこそこ余裕があるように思えるが、意外にすぐ到達してしまうという。

「都市部のサラリーマンが会社への行き帰り時、地下鉄で毎日動画を見たりすれば、すぐに5GBは超えてしまいます。また、コロナ禍の影響で急増中のオンライン会議とかオンライン飲み会なら、1時間で1GBぐらい使ってしまうこともありますからね。もちろん、5GBを超えても1メガビットの速度で使えるんですが、画質が落ちたりして快適な使い心地とは言えません」

先着300万人まで月額料金1年間無料のキャンペーンはインパクト大ではあるものの、かといって初期費用が一切かからないわけではない。

「新規ユーザーは、それまで他キャリアで使っていた端末を使えなくはないんですが、動作保証されていない場合がほとんど。だから結局、契約時に楽天モバイルが扱っている専用端末を買わなければなりません」

その端末はといえば、コスパ重視の安価なモデルが中心で、魅力に乏しいラインナップなのだ。

「結局、iPhoneを扱わないことには、他キャリアからユーザーを奪うのは至難の業なんです。何といっても、日本のスマホユーザーが使っている端末の半分はiPhoneですから。iPhoneからAndroid機に変更するのは心理的な負担が大きいので、気軽に楽天モバイルへ乗り換えさせたいのなら、iPhoneの取り扱いは必須条件。しかし、誕生したばかりの楽天モバイルはユーザー数やネットワーク品質などの実績に乏しく、キャリアを厳しくふるいにかけるアップルが、iPhoneの取り扱いをすぐにOKするとは思えません」

 

契約者が増えた場合、快適な速度を保てるのかは未知数

不安材料はまだある。

「自前回線の範囲を拡大するための基地局設置は計画以上のペースで進んでいるものの、まだまだ数が足りない。また、今のところ楽天モバイル回線の通信速度は快適と言えるレベルにありますが、まだ契約者数が少ないからこそ実現できている可能性もあります。今後ユーザーが増えた際、同じ速度を保てるかは未知数と言わざるを得ません」

そんな中にあって、契約者を大量獲得する起爆剤にしたいのが、5Gサービス開始(6月開始の予定が約3カ月の延期に)だ。

「当然、対応端末を出してくるでしょうし、他キャリアにない5G関連サービスを展開できれば、状況は一変するかもしれません。とはいえ、最初から画期的なことをやれるはずはないので、形勢逆転とまでは……」

携帯電話事業についての記者発表会で、質問を聞く楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と楽天モバイルの山田善久社長=2019年9月6日、東京都世田谷区
写真=時事通信フォト
携帯電話事業についての記者発表会で、質問を聞く楽天の三木谷浩史会長兼社長(左)と楽天モバイルの山田善久社長=2019年9月6日、東京都世田谷区

とまあ、コロナ禍の影響がなくてもいろいろと前途多難なのだが、さらに楽天モバイルの三木谷浩史会長は何を思ったか、グループ本体の楽天で4月20日から、新型コロナウイルスPCR検査キットの法人向け販売を始めたのである。

楽天PCR検査キットはゴミだった

他国に比べてPCR検査実施数の少なさが指摘されている中、企業が社員を自宅待機させるかなどを判断する際の参考にできるキットの提供は、大英断に見えた。しかしこのキットでの判定の精度は低く、罹患りかんしていないのに罹患していると判定されたり、罹患しているのに罹患していないと判定されたりする割合が高い。前者の場合は正確な検査を希望する人々が病院に殺到して医療崩壊を招きかねず、後者の場合は自覚のない罹患者がウイルスをばらまいてしまう。

さらに、検査のためのサンプル採取には綿棒を鼻のかなり奥まで突っ込む必要があり、素人が自分で採取を行うのはまず不可能なので、正確な検査はそもそも期待できないという。こうした懸念から、楽天が発売している検査キットには、医療従事者を中心に続々と疑問、非難の声が上がった。なぜ三木谷氏は突然、そんないわくつきの商品に飛びついてしまったのだろう。

「日本屈指の経営者として、現在のような有事の中、国のために何かしなければという使命感があったのは間違いないと思います。しかもキットの製造元は、自身が社外取締役を務めている会社。だから事前に厳しい精査もせず、大丈夫だと信じ込んでしまったのでしょう。ところがその会社の前社長は、一部メディアで学歴詐称疑惑などが取りざたされているわけですが……。やはり企業トップたる者、自分が精通している領域でない分野へ軽々に手を出すべきではないということです」

 

本業の楽天市場を充実させてほしい

そして結局、識者の意見を受け入れる形で楽天は4月30日に検査キットの販売を停止し、三木谷会長も同日付けで製造元の社外取締役を辞任した。

「楽天モバイルが第4のキャリアとして参入したのも、言わば彼の“思い付き”からだし、当初2GBと発表されていたKDDI回線でのデータ容量を、サービス開始日の当日に急遽5GBまで引き上げたのもそう。冷静に考えれば楽天モバイルの経営をかなり圧迫してしまうのに、『2GBでは少なすぎる』との世間の落胆の声をかき消すために三木谷氏が押し切ったと言われています」

そのような体制では、気骨のある有能な人間ほど三木谷氏から離れていく。楽天モバイルに限っても、今年に入ってから副社長やマーケティング部門のキーマンだった人物が社を去っている。

「マスクはもちろん、巣ごもり需要でホットケーキミックスや小麦粉が町中から消えてメルカリで転売されているらしいので、そういった生活に根差したものを本業の楽天市場で入手しやすくするとか、もっと自分たちの既存サービスを生かせる方面で力を発揮してほしいのですが」

では楽天モバイルは、本業のひとつとして機能することになるのか? ユーザー獲得のターニングポイントとしたい5Gサービスの開始は、もう目前まで迫っている。

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