政府がリモートワークを推奨する中、出勤した社員が新型コロナウイルスに感染したら企業は責任を負うのか。ジャーナリストの村上敬氏が、労務問題に詳しい千葉博弁護士に話を聞いた――。

アメリカでは感染者の遺族がスーパーを訴えている

5月6日に期限を迎える予定だった緊急事態宣言の期間が、31日までに延長された。政府は人の接触機会を減らすため、企業に対して出勤者を7割以上減らすように要請している。しかし、経団連が会員企業を対象に4月に行った調査では、テレワークや在宅勤務で出勤者を7割以上減らした企業は半数にすぎなかった(公共インフラや生活必需サービスなどの企業は除く)。

経団連の会員企業は大企業ばかりで、就労者数で日本の約7割を占める中小企業は調査対象になっていない。中小企業は大企業に比べてテレワークが進んでいないことを踏まえると、いまだ多くの人が出勤を余儀なくされていると考えていいだろう。

従業員を出勤させている企業にも、それぞれに事情があるのかもしれない。しかし、いまの状況で出勤させることが経営的にベストな選択かどうか、改めて考える必要がある。万が一、従業員が新型コロナウイルスに罹患りかんした場合、従業員やその遺族から損害賠償を請求されるリスクがあるからだ。

実際、アメリカではウォルマートで働く従業員が新型コロナウイルスに感染して、3月25日に死亡。その遺族が4月6日、ウォルマートと施設所有会社を相手に訴訟を起こしている。その従業員は死亡の2日前までウォルマートで働いていたという。

訴訟大国アメリカでの話だとはいえ、他人事ではない。日本でも、企業には従業員が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」が課されている(労働契約法第5条)。この義務を怠って従業員に損害を生じさせれば、損害賠償の対象になりうる。新型コロナウイルスについても同様で、企業側に安全配慮義務違反があったと認められれば、従業員や遺族が被った損害を賠償する責任が生じる。