「生産性の低さ」で必要以上に卑下?実は「世界最高の国」3位の日本
ざっくり言うと
- 米誌が公表した「世界最高の国ランキング」の2020年版で日本は3位に入った
- 生産性の数字が低いからといって、必要以上に卑下することはないと筆者
- 国民の生活水準や社会保障制度も含めて、総合的に判断する必要があるとした
日本はいま「生産性が低い」ことが議論の俎上に載せられることが多くなっています。
生産性を上げることが日本の経済力に資することは明白ではありますが、ではどの程度、上げていくことが日本にとっていいのかという議論はおざなりにされています。
いいとこ取りの「生産性改革」はむしろ日本に害をもたらすというのが、実は私の主張です。今回はそんな「生産性改革」の表と裏を見ていきましょう。
「大量早期退職時代」を迎えて
2月26日付の連載記事(『サラリーマン消滅時代、日本で「低スキル・低賃金」の人が急増する!』)では、生産性を上げると同時に格差をなくす手法として、低スキルゆえに低賃金に甘んじているすべての人々を対象としたスキルアップ教育の重要性について申し上げました。
ところが実際には、小売・飲食・宿泊などのサービス業の現場だけではなく、経済のデジタル化であおりを受けている大企業にも、スキルアップが欠かせない人々が大勢います。
大企業で40代、50代の「早期退職」が急増している
日本の大企業はバブル期の大量採用などで中高年社員の層は厚いので、50歳を過ぎても管理職になれない人材がこれまで以上に増えてきています。日本の企業は終身雇用が常識となっているので、スキルが通用しなくなった社員をそのまま抱え込むしか選択肢はありません。
そのようなわけで、日本企業の国際競争力低下の原因は、ホワイトカラーを中心に大量の余剰人員を抱えているということにあります。
しかし、ITやAIを活用した経済のデジタル化の進展によって余剰人員が増える見込みにあるため、余剰人員の問題がいよいよ日本企業の経営を揺り動かす懸念要因として浮上しています。
「社内失業者」は400万人以上
その対応策のひとつとして、大企業では近年、定年前の退職を募る早期退職を実施しているところが増えています。東京商工リサーチの調査によれば、2019年の上場企業の早期退職者数は、2018年と比較して3倍にも増えているのです。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、大企業で大学・大学院卒の男性の給与が最も高くなるのは50~54歳で、2018年の平均的な月額給与は59万円です。団塊ジュニア世代にあたる45~49歳も54万円と高い水準にあり、大多数の企業では中高年の給与が重いコストになっています。
ですから、大企業は業績が好調で余裕のあるうちに、大量に採用したバブル世代や人口が多い団塊ジュニア世代の人員を削減しながら、若い世代をできるだけ多く採用しようとしています。経済のデジタル化による事業環境の大きな変化に備えるため、企業の年齢別構成の適正化を今のうちに進めておきたいのです。
高給を得る窓際族は「ウィンドウズ2000」などと揶揄される
リクルートワークス研究所の調査によれば、日本企業のなかには社内失業者が2020年の時点で推計408万人いるとされていますが、中高年を中心にこの人数は今後も増えていかざるをえないでしょう。
そういった意味では、日本企業が今の競争力をできるだけ保つためには、中高年ホワイトカラーへのスキル教育を積極的に進めなければならないということです。
「楽しむ」つもりはありますか?
これまで中高年世代の多くは、終身雇用という制度に安心して、自らの能力を高めようとする動機がありませんでした。
大したスキルを持っていない中高年にとって、これからの新しい経済下で生き抜いていくポイントは、学び直しによって新しいスキルを身に付けて、自らが活躍できる場所を会社の内外に増やしていくということです。
これまでのスキルだけではもう生き残れない
そのうえで、自らがどのような仕事に興味があるのか、どのような職種を選択してスキルアップしていくのかといった視点があれば、いっそう先行きは明るくなるでしょう。
圧倒的多数の中高年にとって、仕事とは「生活のためにするもの」「つらくて憂鬱なもの」であり、「楽しむもの」だという発想が乏しいのが現状です。
ところが、中高年の人々が自ら興味がある仕事を見つけて、その仕事を楽しむという発想が持てるようになれば、自然と仕事に熱中できるはずなので、スキルは着実に上達していく傾向が強いはずです。
その帰結として、仕事へのモチベーションが上がり、生産性も上がるということは、実証的なデータがなくとも簡単にイメージしてもらえると思います。
要するに、これからの日本経済の生産性の底上げできるか否かは、仕事へのモチベーションが高い人や、自発的にスキルアップを考える人がどれだけ増えていくかに懸かっているというわけです。
最も生産性が低いのは「永田町」…?
これは他の連載でも申し上げたことですが、今の日本を見ていて非常に不安なところは、日本で最も生産性が低いのが政治の世界ではないかと思わざるをえないということです。
国会議員の「定数削減』を求める声はいまだ絶えない
とりわけ国会議員に求められる基本的な素養は、一般の人々よりも教養や知識、考える力を持っているということです。
そして、そのうえで求められるのが、国民のために一生懸命になって働くという姿勢です。国民の立場からすれば、基本的な素養がない議員に国の発展を託すことなどできませんし、私利私欲に走っている議員に報酬を支払い続けるのは税金の無駄遣いにほかならないからです。
私が一人の国民として議員の方々にお願いしたいのは、「もっと学び直しをしてほしい」「もっと仕事に真摯に取り組んでほしい」ということです。
もちろん、日々精進をしている議員の方々がいることは承知しておりますが、全体としてはあまりにレベルも志も低すぎるといわざるをえないのです。
この際ですから、議員の質的な向上をはかるために、選挙に立候補するための試験制度を導入したらいかがでしょう。それができないようであれば、国からの独立性を保った議員の評価機関をつくるしかないのではないでしょうか。
生産性ばかりにこだわると全体を見失う
私はこれまで複数回にわたって、日本の生産性を引き上げるための問題点や対応策について申し上げてきましたが、経済政策を考える際に、生産性を第一にすることは間違っていると確信しています。
さらに、生産性の数字が他の先進国と比べて低いからといって、日本を必要以上に卑下することは愚かな行為だとも思っています。なぜなら、国民の生活水準や社会保障制度も含めて、総合的に判断する必要があると考えているからです。
たとえば、アメリカは先進7か国のなかで最も経済成長率と生産性が高いにもかかわらず、実に国民の40%以上が貧困層および貧困層予備軍に属しているとされています。
また、失業率はコロナ前には50年ぶりの低水準にあったにもかかわらず、労働者の60%は短期契約などの非正規雇用で不安定な生活を強いられているのです。
アメリカのメディアでよく引き合いに出されるFRBの統計では、アメリカ人の成人の50%近くが400ドル(約4万3千円)の突発的な費用を支払える貯蓄がないと回答しています。就職しても学生ローンを返済できずに、破産や離婚に追い込まれるケースが当たり前の出来事になっています。
それに加えて、生産性の向上を目的に病院の統廃合が進み競争がなくなった結果、医療費が高騰し、国民の4人に1人は病院に行きたくても行けないといわれています。
国民の10人に1人が無保険の状態にあり、高額な医療費を払えないために年間50万人が破産するという厳しい状況にあります。(なお、イギリスでは国の医療制度がコロナ前から破綻しかけており、急患で運ばれた患者が医療を受けられずに死亡するというケースが珍しくはありません)
これらの事実を鑑みて、日本の生活水準や社会保障制度がアメリカ(やイギリス)に劣っているといえるのでしょうか。
いまも「最高の国」と評価される日本
生産性という数字だけを重視するあまり、日本はアメリカ(やイギリス)を見習うべきだという意見が政府内にあるのは、非常に危惧すべきことだと考えております。
アメリカの時事解説誌『USニューズ&ワールド・リポート』が公表している「世界最高の国ランキング」によれば、2020年の日本の順位はスイス、カナダに次いで3位となっています(2019年はスイスに次いで2位)。
このランキング付けは、ペンシルベニア大学ウォートン校の研究チームなどが開発した評価モデルに基づいて、「ビジネスの開放度」「生活の質」「市民の権利」「政治・経済的影響力」「文化・自然遺産」など9項目について調査したものです。
当然のことながら、私はこのランキングが絶対だとは毛頭思っていませんし、少なくとも国の経済や豊かさを見るうえで、絶対的なランキングなどは存在しないという立場を取っています。
ですから、経済政策を決定する方々には、何かの数字を重視しすぎると何かの数字にしわ寄せが来るという「トレードオフの関係」を見定めながら、国民の多くが納得できる優先順位に基づいた内容を考えてほしいと願っているところです。
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