※本稿は、永井ゆかり『1万人の大家さんの結論! 生涯現役で稼ぐ「サラリーマン家主」入門』の一部を抜粋・再編集したものです。
1万人大家さんの「知恵」による12カ条
私は、これまでに延べ1万人の家主に取材してきた。経営が順調な家主たちは、前の職業でのさまざまな経験を「知恵」に変えて賃貸経営に生かしている。彼らの賃貸経営に取り組む姿勢や具体的な仕事のやり方、賃貸経営の哲学を、家主の具体的な業務の流れに沿って落とし込み、「家主業の極意12カ条」にまとめてみた。
第2条 バラ色の セールストークに トゲがある
第3条 割安の 不動産には ワケがある
第4条 買う前に 現地訪問 怠るな
第5条 余裕なき 収支計画 回避せよ
第6条 借金の 重み知らずに 借りちゃダメ
第7条 入居者の ニーズ把握し 部屋づくり
第8条 業者は 家主の大事な パートナー
第9条 法律や 税務の知識 身につけよ
第10条 売却は 事業拡大の カギ握る
第11条 家主業 投資ではなく 事業なり
第12条 人生に 幸せもたらす 家主業
家主業を始めるにあたり、最初の一歩となる事前準備、物件の選定や購入など、初期の段階で入門者が警戒するべきポイントを説明したい。
不動産会社主催のセミナーは営業ツール
新しく何かを始めるとき、まずはそのテーマに関する情報を、さまざまな角度から幅広く集めるだろう。情報の集め方次第で結果が大きく変わってくるのが家主業である。今、「不動産投資」に関しては情報があふれているといっても過言ではない。書店に足を運べば、不動産投資専用の書棚はあるし、インターネットで「不動産投資」と入力し検索すれば、もの凄い数のサイトやブログ、動画、SNSのページが出てくる。投資や資産運用の分野で、不動産投資はかなり大きな存在感を示すようになっている。
一方で、その情報を一つ一つ見ると、さまざまな投資手法がある。不動産といってもさまざまなタイプがあり、どの不動産をどんな方法で購入したらいいのか、迷ってしまうのではないだろうか。そこでまずは専門家の話を聴こうと考え、収益不動産サイトに掲載されている不動産投資セミナーに参加して情報を集めるビギナーは多い。
セミナーに参加することは確かに情報収集の一つの手段である。ただし気をつけなくてはいけないのは、そのセミナーの多くは不動産販売業者が主催しているということだ。そのことをきちんと理解して参加するのであれば問題はないが、そうでない場合、販売業者の上手なセールストークに乗せられ、不本意な不動産購入をしてしまうケースもある。
そういう人は、実際には1つか2つ程度のセミナーに参加しただけで決めてしまうのだ。多少のリスクがあっても、買いたくて仕方のないビギナーは、販売会社に「大丈夫、あなたなら買えますよ」などと言われると舞い上がってしまうからだろう。不動産の世界は金額が高いモノを扱うだけに、玉石混交だ。もちろん良心的な不動産販売会社もある。その良心的な販売会社を見つけ出せないと、不動産を購入できても後から苦労する羽目になる。
成功した家主は数十冊もの書籍を読んでいる
だからこそ情報は多方面から集めることが重要だ。まずは不動産投資と名の付く書籍は片端から読もう。うまくいっている家主たちは基本的に数十冊は読んでいる。これまで取材した家主の中には「読んだ本は100冊を超える」という人もいた。収益不動産を購入するときにどんなことをしたらいいのか、どんなことに注意したらいいのかなどは、先輩たちが経験してきたことや専門家によるアドバイスなどで知ることができる。
ただし、不動産投資本もまた、玉石混交であることは留意しておきたい。特に近年は不動産を購入してまだ5年も経っていないような人が、まるで自分は「成功者」のように本を出版しているケースが目立つ。家主業はたった5年くらいではうまくいったかどうかは正直わからない。むしろ買った当初は儲けやすく、徐々に収入が減り、借り入れの返済が終わったころ、また増えていく傾向にあるのだ。家主歴が10年未満の人が書いた本については、参考程度にとどめておいた方が無難だろう。
家主ネットワークを作るのも有効だ
情報収集の方法は、販売業者によるセミナーと書籍ばかりではない。近年全国的に増えている「家主の会」に参加してみるのも有効だ。「家主の会」とは、家主が主催する家主のための仲間づくりの会であり、弊社が把握しているだけでも全国に100近くある(本書の「全国の主な家主の会」参照)。
講師は、弁護士や税理士、建築士など会のメンバーの顧問先の士業の専門家、自身の賃貸経営を語る家主、新しい商品やサービスの紹介及び市場トレンドなど不動産業に関連する業者が話すケースもある。
最も特徴的なのは、家主自身による講演が多いことだろう。家主自身による成功談や失敗談、自らの経験に基づいた経営姿勢などのリアルな話は大いに刺激になる。勉強会を行う会では、たいてい懇親会も行っている。会に参加し仲間をつくることで、家主同士だからこそ入ってくる情報が得られる。同じ家主として悩みを相談できる人たちもいる。仲間の輪をつくることで、良心的な不動産会社を紹介してくれたり、金融機関を紹介してくれたりもする。こうした家主のネットワークは貴重だ。
こうして情報収集のルートを増やしていくと、今度はさまざまな投資手法があって迷ってしまう人も多い。迷ったときは、自分が収益不動産を購入する目的を明確にすること、そしてその情報が本当に有効なモノか、怪しいモノかを見極める力が重要になってくる。その2つさえきちんと持っていれば、大きく失敗することはない。
家主仲間の存在は「情報の鵜吞み」を防止できる
不動産情報は、基本的に不動産会社から得るケースが多い。新築であれば、新築不動産の販売会社、中古であれば仲介会社か、再販会社だ。家主の仲間がいない人の場合、不動産について教えてくれる人は不動産会社の営業マンしかいないため、つい彼らの話を鵜呑みにしてしまいがちだ。
「自己資金ゼロでも買えます」「初心者で不動産について知らなくても大丈夫。私たちがサポートします」「ここでしか手に入らない物件情報があります」などなど……。営業マンはこうしたトークで不動産販売の営業をする。この3つのトークだけで、不動産購入の障壁は低く、素人でも簡単に始められるものだと思ってしまう人も少なくない。
しかし、ここまで本論を読んだ読者の方たちであれば、これらのセールストークに問題があることに気づくだろう。
セールストークを信じ切ってしまった会社員の末路
ここで、不動産会社の営業マンのセールストークを真正直に信用して大変な目に遭った人の事例を紹介したい。投資用ワンルームマンションを営業マンに言われるがまま買い進めて、結局、損切りで売却したサラリーマンの笹川さん(仮名)だ。
不動産会社の営業マンに「1つしか持っていないから不安定になるんですよ」と言われ、3戸購入してしまったことを後悔しているという。
悪夢の始まりは2006年。新築分譲マンション業者から電話営業されたことがきっかけで、1戸購入したことだった。「老後対策として、また節税対策としてもいい商品ですよ」と勧められて契約。営業マンに言われるがままローンを組み、その後の賃貸管理は販売会社の系列の管理会社に任せることにした。購入当初は新築とあって家賃も高く、入居も安定していた。収支も毎月の手残りこそわずかだったが、マイナスになることはなかった。
ところが、数年経つと周辺に新築ワンルームマンションが多く建ったことから、空室期間が長くなり、家賃の値下げを余儀なくされ、その結果、収支はマイナスになった。これからどうすればよいのかと担当の営業マンに相談した。そこで、冒頭のセリフを言われ、2戸目と3戸目を購入してしまったが、結局やりくりするのは大変だった。
担当の営業マンに電話すると、すでに退職していた。サラリーマンとしての収入があるので、不動産収支のマイナスを何とか補填することはできたが、退職後の見通しに不安を感じ、結局、売却を決意した。損切りせざるを得なかった笹川さんは、自らの安易な不動産投資に猛省したという。
「高利回り物件」の8つの理由を押さえよ
不動産投資家が書いた書籍やブログなどでよく出てくるのが、「高利回り」という言葉だ。
「利回り」とは、投資額(不動産購入額)に対するリターン(家賃収入)の割合のことで、収益性の目安となる。当然、「高利回り」とは「高収益」ということで、不動産情報にある「高利回り物件」という文字は、収益不動産を購入しようとする人たちの目には魅力的に映る。高利回り物件とは、価格が安い割に高い家賃収入が得られる物件のこと。つまり、いかに割安な物件を探せるかどうかがポイントというわけだ。
まず、留意しておきたいのは、不動産に限らず、割安なモノには当然割安な理由があること。その理由をしっかり押さえておかないと、買った後に「こんな物件買わなければよかった!」と後悔することになる。価格が安い理由は、買いたいと思う人があまりいない、つまり人気がないということだ。そこで、まず不動産で人気がない物件の特徴を挙げてみよう。
2 立地が悪い
3 空室だらけで家賃収入が少ない
4 借地権が付いている
5 土地に接道がなく建て替えができない
6 事故物件である
7 特殊な物件である
8 売主に事情がある
主に以上の8つの理由がある。ここでは、最も高い利回りを狙える可能性がある物件の1つ、建物が古い物件を購入する際の注意点について、説明しよう。
今年4月に改正された「契約不適合責任」とは
建物が古い物件は、立地が良い場合でも古いというだけで家賃を低く設定していることが多いため、リフォームにより高付加価値物件に再生しやすい。「高利回り投資で成功した」と標榜している人の多くは、築年数の古い物件を購入し、リフォームにより内装の見た目を良くして家賃を上げて貸している。リフォーム費用を抑えるために、家主自らDIYで壁紙や床材を張り替えたり、塗装したりするケースもある。
ただし、屋根や躯体に問題がない建物であるかどうかを必ず確認しなくてはいけない。近年は「ホームインスペクション」と呼ばれる建物診断が注目を集めている。アメリカでは、不動産取引時に行うことが義務化されていて、日本でも、2018年4月に、中古住宅の売買時に、不動産業者がホームインスペクションについて買主や売主に対して説明することや、ホームインスペクション業者(住宅検査事業者)を紹介・斡旋できるか告知することが義務化された。
ホームインスペクションは有料ではあるが、行っていない建物の場合は、自己負担してでも行った方がいい。買う前に問題の有無が明確になり、リスクを回避することができるからだ。
また、古い建物にはシロアリ被害や雨漏りといったトラブルがあるケースも多いため、「契約不適合責任」についても知っておくべきだ。「契約不適合責任」とは2020年4月に民法が改正される前まで「瑕疵担保責任」という名称で使われていたもので、売買契約で商品に品質不良や品物違い、数量不足などの不備があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことだ。
これまでは例えば、シロアリ被害や雨漏りなど、売買の目的物に、買主が発見することのできない「隠れた瑕疵(欠陥)」があるときに、買主は売主に対し、損害賠償や契約の解除を請求することができた。だが、法改正によって、買主が契約以前からシロアリ被害や雨漏りなどの欠陥があることを知っていた場合でも売主は責任を負う。さらに、追完請求(修補、代替物引渡等)や代金減額請求ができるようにもなった。
ただし、契約不適合責任は瑕疵担保責任と同様に任意規定のため、売主が宅建業者の場合などを除き、これまで通り売主と買主の合意があれば、契約不適合責任を免責にしたり、契約不適合の範囲を限定しても法的に問題はない。契約の内容については注意が必要だ。
「高利回り」は収益性の目安に過ぎない
こうした契約的な部分以外でも、古いアパートや一棟マンションで気をつけなくてはいけないのは、退去が発生したときだ。購入当初は、空いている部屋のリフォーム費用を予算として組み入れて収益性を考えるが、購入後、退去が発生すると、退去した部屋もそのままの状態では貸しにくいことから、リフォームをする必要が出てくる。この退去のタイミングが重なると、予想していなかった出費がかさみ、たちまちリフォーム費用が足りなくなる。
利回りは、あくまでも不動産の収益性の一つの目安に過ぎない。自己資金をどのくらい準備できるのか、収入だけではなく、支出の金額や内容を試算し、キャッシュフローを十分考慮して買うことが必要だ。