キャッシュレス化の恩恵と欠点
新型コロナ危機をきっかけとして、キャッシュレス社会化が加速しているが、次第にその長所と短所の両面が浮かび上がっている。
国際決済銀行(BIS)が最新のレポートで、コロナウイルスが決済に与えた影響を論じたが、その中には以下の点も含まれていた。
- 接触を恐れ、現金の使用を避ける消費者が増えたため、非接触型カードやデジタル決済の使用が促進された。
- 都市封鎖や外出制限により、eコマース決済が急増。
こうした状況がもたらす恩恵としては、まずオンライン市場の興隆がある。
例えば、英国のファーマーズマーケット「Florence Road Market」は、パンから有機野菜、肉、チーズまで様々な農産物を販売する野外市場であったが、オンラインに移行して以来、利益が増加。(海外メディアDecrypt参照)
この市場はコミュニケーションを促進するためにも、対面型の市場として開催されていたものだが、オンラインになってから新しい顧客を獲得し、利益が6倍になった。また昔からの顧客も、オンラインで購入を続けているという。
ここでは、米決済会社Squareのツールを使用してオンライン注文サービスを設置した。
Squareによれば、こうした傾向は世界中で見られ、カード決済の割合が95%以上を占める企業からのシェアが急上昇している。
キャッシュレス化がもたらす問題点
しかし、キャッシュレス化が進むことのマイナス面も各方面から指摘されている。
グローバル金融についてのジャーナリストであるBrett Scottは、「キャッシュレス社会」とは実際には「銀行社会」であり、銀行が人々の取引すべてを仲介し、膨大な量のデータを収集、人々の経済生活に多大な影響力を持つことになると懸念している。
また、銀行口座を持たない人々が、支払いを行ったり資金を受け取ったりする手段を失う恐れもある。
対策としては、銀行口座なしでも資金を受け取り可能にするデジタル通貨を発行することも考えられる。しかしデジタル通貨については電子取引により匿名性が低下したり、またサイバー攻撃に対する脆弱性が高まることを懸念する声もある。
政府系機関では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行により、そうした懸念を和らげることができるとする論が増えてきた。
国際決済銀行によると、CBDCの導入により、民間の仲介業者間の公平な競争を促し、セキュリティとリスク管理に高い水準をもたらすことが可能だという。
スウェーデンの中央銀行も、民間企業のグローバルなステーブルコイン(Facebook主導の仮想通貨リブラなど)との競争において国の通貨を保護すること、また取引データを商業的に利用されないよう保証することが、CBDCにより実現可能と指摘した。
民間デジタル通貨
フェイスブックの「リブラ」や最近誕生した類似プロジェクトの「セロ」は、銀行口座を持たない人々の経済的包摂も目的としている。
またビットコインなど仮想通貨は法定通貨が不安定であったり、銀行口座を保有しない人々の率が多い国で、代替の金融アクセス手段として近年注目されてきた。
趨勢としては、金融のデジタル化・キャッシュレス化の進展は避けられないという意見が多い。しかしデジタル化に伴う課題を解決しつつ、民間部門と政府部門のどちらがその流れをリードしていくのか、あるいは協力していくのかについては、これからも議論が多くなされそうだ。
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