銀行システムやゴールド産業と比較
米大手暗号資産(仮想通貨)投資企業Galaxy Digitalのマイニング部門が、ビットコイン(BTC)のエネルギー消費についてレポートを発表した。この記事では、ビットコインの電力消費状況を、ビットコインに関してよく引き合いにだされる銀行システムやゴールド(金)などと比較検討したレポートの概要を紹介する。
試算によると、ビットコインの年間エネルギー消費量は、両者に比べて大幅に低かった。推定される年間消費電力は、ビットコインが約114TWh(テラワット・アワー)、ゴールドは約241TWh、銀行セクターは約264TWhである。なお、従来型の銀行システムやゴールド産業は、エネルギー消費量を公表していないため、この数字はGalaxy Digitalが様々な要素を考慮して見積もったものである。
まず、ビットコインの直接的な電力消費は、トランザクションを検証・中継するノード、マイニングプール、マイニングマシンの3つによるもの。その内、マイニングマシンの稼働によるものが約99.8%と圧倒的な割合を占めている。
ビットコインネットワークはこれらを合わせて一年間に、推定113.89TWhを消費しているという。
次に、ゴールド産業についてGalaxy Digitalは、ワールド・ゴールド・カウンシルのレポート「Gold and Climate Change: Current and Future Impacts(ゴールドと気候変動:現在と将来のインパクト)」に掲載された、2018年のゴールド業界の温室効果ガス総排出量(GHG)を参照。その数値から年間エネルギー消費量を算出した。
炭素排出の多くは、ゴールドの採掘や精錬のプロセスから発生する。ビットコインと比較するために、ジュエリー加工や投資などにかかる間接的な排出量を除くと、ゴールドの年間GHG排出量は、1億tCO2(二酸化炭素トン)となった。その数値から、Galaxy Digitalは年間消費電力は約240.61TWhと推定。
銀行業界は、電力消費データを報告していない。Galaxy Digitalは「銀行のデータセンター、銀行の支店、ATM、カードネットワークのデータセンター」などに関する情報から消費電力を導き出した。
データセンターの面積や支店の総数、営業時間、世界の中小企業の平均電力消費量、取引件数など様々な要素を加味すると、銀行システムの年間消費電力は、推定263.72TWhだと見積もられる。
こうしてレポートによると、ゴールドと銀行システムのいずれも、ビットコインより年間消費電力が多い計算結果となった。詳しい計算方法はレポートに掲載されている。
余剰電力を活用するインセンティブ
さらにGalaxy Digitalはビットコインに対する「より生産性の高い電力活用方法からエネルギーを奪っている」「エネルギー消費量の増加につながっている」という批判にも異を唱えた。
ビットコインマイニング業者には、利益を最大化するために低コストの電力を求める傾向がある。その際に安価な電力として、エネルギー市場で余っていたり十分に活用されない可能性のあるエネルギーを利用するというインセンティブが与えられる。
例えば、石油の抽出過程で発生する副産物にメタンがあり、パイプラインがなければ輸送できないため、一般的に大気中に放出するか、燃焼されるという。しかしメタンによる温室効果は、同量のCO2に比べて25倍と言われており、環境負荷が大きい。この解決策の一つが、ビットコインマイニングに利用することだ。
Crusoe Energy Systems社などの企業はメタンを回収するインフラを構築し、ビットコインのマイニングに利用している。発電機でメタンを99%の効率で燃焼させ、大気中に放出される場合に比べて、24倍排出量を削減できるという。
またビットコインマイニングのある部分は、風力・太陽光などの自然エネルギーを活用しており、こうした部門に収益を提供することにもつながっているとレポートは指摘した。
レポートの紹介は以上だが、仮想通貨業界も最近、エネルギー問題への取り組みを加速させていることは注目される。例えば4月には国際的業界連合「Crypto Climate Accord(クリプト気候協定)」が発足。2040年までに仮想通貨業界全体の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指すと発表した。
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