お金の未来
世界的金融大手のシティ(Citi)が、フェイスブック主導の仮想通貨ステーブルコインDiem(旧Libra)を、「グローバルな視点と解決策」を提供するレポート、「Citi GPS」で大きく取り上げた。
「お金の未来:仮想通貨、CBDCと21世紀の現金」と題した100ページを超える詳細なレポートはデジタル時代のお金、特にトークン化された「デジタルマネー2.0」に焦点を当てた内容となっている。
レポートでは、中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)、中国人民元のデジタル通貨(DCEP)、ビットコイン(BTC)・仮想通貨について、それぞれ独立した章で分析しているが、Diemについては「ビッグテック、ステーブルコインとDiem」という章を設け、その背景からユースケースまで詳しく解説している。
シティが指摘したユースケースの一つが、「ホワイトラベルのCBDCプロバイダー」となる可能性だ。
Diemの特徴とユースケース
Diemは、既存の銀行・カード決済システムに代わる新しい決済ネットワークを構築するプロジェクトだが、最終的には決済だけではなく、金融サービスのためのインフラを開発することも目的にしている。
また、銀行や企業、またサービスプロバイダーなど、様々な参加者間に高度な相互運用性をもたらすよう設計されている。そのため、将来的には、各国のCBDC上にもインフラレイヤーとしての構築が可能と考えられている。
ユースケースとして、レポートでは次の三つを有力な可能性としてあげた。
決済システム構築支援
国内の決済システムが未整備の小規模な国々で、中央銀行の決済インフラ構築(CBDCを含む)に技術支援できる可能性。(すでに決済システムが整備され、CBDCの開発に着手している国では、成功の可能性は低くなる。)
ホワイトラベルのCBDCプロバイダー
DiemネットワークはCBDC上に、より高いプログラム性を持つインフラ層を提供することが可能な設計となっている。
そのため、Diemの運用が許可されている国でCBDCが実現した場合、Diemネットワークと公共部門の取り組みを直接統合することにより、決済において追加の機能や特性を提供することが可能になるという。
国境を跨いだ決済
世界の平均国際送金コストは約6.5%と言われているが、新興国では2桁になることも珍しくないという。Diemはこの国際送金コストを大幅に削減する可能性が期待されている。
また、Diemが国内決済用のウォレットに国際送金の機能を追加する可能性も指摘された。
リブランディング
初めて仮想通貨Libraの構想が発表された2019年6月、一般の銀行業界だけではなく、各国の中央銀行まで脅かす存在として、Libraプロジェクトは規制当局をはじめ、米国議会などからも大きな批判を受けた。
当時、開発を主導するフェイスブックは、個人情報流出などで多額の制裁金が課され、独占禁止法違反で米連邦取引委員会の調査を受けていたことも重なり、プロジェクトは当初から、懐疑の眼差しで見られ、逆風にさらされるスタートとなった。
そして昨年12月、LibraはDiemと改名。設計や規制の準拠方針を大幅に変更した。まず、複数の法定通貨(バスケット方式)を担保とするのではなく、単一通貨に紐づけられたステーブルコインへと変更された。また、コンプライアンスの強化やパーミッションレス・システムへの移行の廃止、準備金のカストディの強化などが盛り込まれた。
Diemへの改名に際し、Diem協会CEOのStuart Levey氏は、中央銀行のCBDCプロジェクトとDiemネットワークの統合を目指す方向性を示した。
Diemのステーブルコインは現在、規制当局であるスイス金融市場監督庁(FINMA)からの承認を待っている状態だ。
Libraが果たした大きな役割
PwCの仮想通貨部門のグローバルリーダーであるHenri Arslanian氏は、現在でもDiemに対する批判は多いが、Diemは仮想通貨エコシステムの歴史において、ビットコインの誕生に次ぐ、重要な出来事の一つだと主張している。
それは、一般の金融機関だけではなく、国際決済銀行やECBなどの多くの政策決定機関に、二つの大きな動きを引き起こしたからだという。
一つは、Diemがもたらしかねない脅威に気づいた金融機関や業界関係者がデジタル資産に注目し始めたこと。そして、金融政策の決定など、大きな影響力を持つ中央銀行や国際機関、世界経済フォーラムなどが、CBDCやデジタル通貨に対する数多くの研究を行うようになったことだという。
現在、日銀をはじめとする各国の中央銀行はCBDCの研究と開発に取り組むようになっている。
Arslanian氏は、仮想通貨にとってだけではなく、「お金の進化」という面において、私たちは歴史的な出来事を目撃しているのだと語った。