金融庁が税制改正要望項目をまとめる
金融庁は1日、「2021年度・税制改正要望項目」を発表した。
「税制改正要望」は、財務省に対し、翌年度以降の税制改正に求める事項をまとめたものであるが、今年度も暗号資産(仮想通貨)への言及はみられず、少なくとも令和3年には税制改正に踏み切らない考えであることがわかった。
同要望は、8月末日までに各省庁からの税制改正要望が財務省に集まり、毎年9〜10月にかけて取りまとめられる。その後12月中旬ごろ、与党(自民党)により、最終的な改正案として「税制改正大綱」が発表される。
税制改正法案は、翌年1月開催の通常国会により審議され、閣議決定によって、法律として改正案が成立する運びとなる。その草案となる「税制改正要望」は欠かせないプロセスだ。
したがって、現時点で日本政府は、「暗号資産(仮想通貨)の税制改正について、議論の俎上に載せる段階にない」と判断している可能性が高い。
業界団体による税制改正要望書
今年8月には、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が、日本暗号資産取引業協会(JVCEA)と共同で、2021年度税制改正にあたり、税制改正に関する要望書を取りまとめている。
要望書では冒頭、以下のような強い危機感をにじませていた。
我が国は、2017年4月に施行された「改正資金決済法」により世界をリードする立場にあったものの、一方で暗号資産(仮想通貨)に関連する現行の国内税制の適用を回避し、活動拠点を海外に移転する事業者も散見される。
今後見込まれる暗号資産を利用した資金決済分野の革新や、暗号資産を決済手段として用いるブロックチェーン技術の応用による経済社会の高度化に際し、我が国の優位性を損ない、また次世代技術を用いた産業の戦略的な取り込みが、危ぶまれる状況となりつつあるものと思料する。
「税制改正に関する要望書」の要望骨子は、以下の3点だ。
【1】暗号資産のデリバティブ取引について、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、デリバティブ取引に係る所得金額から繰越控除ができることを要望する。
【2】暗号資産取引にかかる利益への課税方法は、20%の申告分離課税とし、損失については翌年以降3年間、暗号資産に係る所得金額から繰越控除ができることとする。
【3】暗号資産取引にかかる利益年間20万円内の少額非課税制度を導入する。
現在の税制では、仮想通貨取引で得た利益は「雑所得」に分類されるため、所得税(税率45%)と住民税(税率10%)を合わせて、最大で55%の税率が課せられるほか。損益通算や繰越控除もできないなど、「新興産業の発展の足かせとなっている」との指摘が根強い。
2019年3月、金融庁に認可を受けた仮想通貨交換業者ディーカレットが、JR東日本の「Suica」を含む複数の電子マネーで、仮想通貨チャージ出来るサービスを検討していることが報じられた。ディーカレットには、JR東日本や大手通信会社やメガバンクなどが共同出資している。
また2019年6月には、楽天ペイメントとJR東日本が、キャッシュレス化の推進に向けて連携を発表。スマホアプリ「楽天ペイ」アプリ内で、JR東日本が提供する交通系ICカード「Suica」の発行やチャージができるようになることを発表した。
時代に合った仕組み作りを
この点について日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は、税制改正に関する要望書にて、以下のように指摘している。
少額であっても利益が出れば必ず確定申告を要するとなると、決済利用の都度利益の計算が必要となり、利用者の事務的・心理的負担等が大きく、ひいては暗号資産の決済利用の促進を阻害する大きな要因となる。
既存の制度に準じた20万円までの利益に対しての少額非課税制度を設けることで、暗号資産の決済利用が促進される。
また、今年5月に施行された金融商品取引改正法により、暗号資産は「金融商品」として位置づけられたことで、金融資産性をもつ支払手段という複合的な性質をもつことが明確化されたことになる。
「租税の公平性・公正性」の観点からも、暗号資産デリバティブ取引につき、他の金融商品先物取引等の決済と同様に、20%の分離課税とすることが求められている。
現行の法律では、仮想通貨の少額決済のたびに確定申告を含む税金計算が必要になり、「時代錯誤」との指摘がある。少額決済非課税が適用されれば、決済手段としての普及の加速も期待できるほか、国が推奨する国内キャッシュレスサービスの普及を促進するためにも大きな後押しとなり得る。
市場規模拡大に伴う流動性向上が、相場の安定性や健全性に寄与し、金融庁の掲げる「利用者保護」の観点にも資することは、株や為替などの伝統金融市場でも明らかだ。
仮想通貨取引の利益に対する税収は、国の貴重な財源として将来的に大きな影響を及ぼし得ることから、20%の申告分離課税の導入は他国との競争力を高め、中・長期的にもプラスに働くものと考えられる。
過剰規制で新興産業を締め付けたままでは、仮想通貨と表裏一体であるブロックチェーン技術の発展や普及をも阻害しかねないだけでなく、税率面で優遇される他国に大きな遅れを取り、日本だけ新たな産業革命から取り残される事態にもなりかねないことなどが懸念される。
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