欧州シンクタンクがCBDCの近未来を予測
オランダを拠点とする非営利シンクタンク「dGen」が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)についてのレポートを発表した。
中国がデジタル人民元とされるCBDCを発行した場合、ユーロや米ドルにもたらす影響、欧州連合が独自CBDCを開発する必要性などについて詳細な検討を行っている。
本記事では、このレポートが結論として予測した内容を紹介したい。
予測1:デジタル人民元が米ドルを追い越すことはない
現在、中国の人民元は、世界最大の輸出国としてグローバルなサプライチェーンの中で重要な役割を果たしており、これがデジタル化された場合には、米ドルに匹敵する力を持つようになるのではないかと論じる声も挙がっている。
しかし、dGenのレポートは、中国のCBDCがドルを圧倒することはないと予測した。
理由としては、たとえ中国が貿易相手国にドルからの離脱を促す大きな圧力をかけても、中国には政情不安が存在していること、そしてドルから人民元への移行に伴う、準備金や事務手続きなどの用意には手間がかかることを指摘している。
世界各国における現在の「ドル備蓄量」を考えると、完全な入れ替わりは現実的ではない。
仮に米国以外の主要国のデジタル通貨が登場したとしても、経済大国間で中長期に渡り優位性が競い合われるため、その間に民間のステーブルコインなど他のデジタル通貨が強力な競争相手として浮上する可能性もある。
予測2:30年までに自国通貨をCBDCに置き換える国が出てくる
レポートは、今後10年間で自国通貨を完全にCBDCに置き換える国が数か国出て来ると予測。
すでに取り組みを進めている国の例としてスウェーデンを挙げた。スウェーデンはすでにキャッシュレス化が進んでいるが、6月に独自のCBDC「e-krona」(e-クローナ)のテスト開始を発表、来年2月までの試運転を予定している。
このプログラムは技術面で大手コンサルタント会社のアクセンチュアと提携して行われており、円滑にCBDCを実装する準備ができているか否かを分析する見込み。
レポートは、e-クローナの立ち上げが成功すれば他の国々もこれに続くと推測している。またCBDCの本格稼働が近い国としてバハマの名を挙げた。
バハマは今年後半にもCBDCを立ち上げることを計画している。バハマは過去ハリケーンの襲来を受けて金融インフラにもダメージを被ってきた経験があり、CBDC導入は災害対策の意味もある。
ワイヤレス通信によってやり取りの可能なデジタル通貨を導入することで、自然災害時に金融サービスや小売サービスへの接続の迅速な普及を図りたいという。
予測3: 小規模国はデジタル・ドルへの移行を検討
今後10年間で、デジタル米ドル、デジタル人民元、デジタルユーロが登場することで、小国はデジタルドルの使用と保管を選択することになるだろうと予測する。
予測4:25年までに欧州がCBDCを持たなければ、ユーロはデジタル人民元に追い抜かれる
dGenは、「CBDCに対する欧州中央銀行(ECB)の反応は遅すぎた」とする、フランクフルト金融経営大学のフィリップ・サンドナー教授の発言を紹介している。
ECBの反応は遅すぎた。産業界にとってのCBDCからの利益、例えばプログラム可能なマネーに基づく利益は、現在のところ無視されている。「リブラ」やデジタル人民元の台頭を考えると、ECBは地政学的立場を維持するために迅速に対応しなければならない。
レポートは続けて、デジタルユーロを成功させるためには、健全な技術インフラ、グローバル展開を確保する必要があり、ECBは、金利の改善、関税の引き下げ、有利な取引条件などを通じて、世界でのデジタルユーロ採用を奨励すべきだと論じている。
以上のような予測に加え、dGenは民間ステーブルコインについては、中央銀行がそれと共存しながら、一つのステーブルコインが世界市場を独占しないような環境を整備することが賢明かもしれないと提言した。
予測がどこまで的中するかは不明だが、欧州のリサーチャーが、デジタル人民元が米ドルやユーロにもたらす影響に大きな危機感を持っていることが分かる内容だ。
フランスやオランダが積極姿勢
欧州では、フランスやオランダが特にデジタル通貨への意欲を見せている。
フランスは5月にブロックチェーン上でデジタル化された証券の決済について実験に成功。またオランダ中央銀行も4月、CBDCについて45ページにわたるレポートを発表しており、CBDCの研究開発や実験を行う場として、主導的役割を果たす用意があるとした。
しかし、CBDC構築についてはユーロ圏全体の課題であり欧州連合全体で検討されていくことになりそうだ。
ECBは昨年、R3やアクセンチュアなどの企業と「中央銀行デジタル通貨における匿名性」についての調査を実施している。
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