イギリスで高齢者向け介護施設の死者数が例年より急増している。4月からの1カ月間の死者は例年より約1万5000人も多い。介護現場で何が起きているのか。原因は新型コロナウイルスだけなのか。在英ジャーナリストのさかいもとみ氏がリポートする――。
 
5月17日、ロンドン東部のブロードウェイ・マーケットに沿って買い物をする人々

 

外出自粛で「第一波」は抑え込めたと思ったが…

新型コロナウイルス感染を背景に、世界中の国で「超過死亡」が続出している。超過死亡とは過去の統計などから予想される死者数に対し、何らかの原因で予想を「超過」した死者数を指す。

超過死亡には新型ウイルスでの死者だけでなく、新型ウイルス流行に伴う医療崩壊などにより他の病気の治療を受けられなかった人が含まれるため、非常に重要な指標といえる。この超過死亡で深刻な状況にあるのがイギリスだ。

イギリスでは、高齢者や慢性疾患などを持つリスク患者を守るため、「Stay Home」が呼びかけられてきた。3月23日以来、8週間にわたって人々は徹底的な「外出自粛」を強いられた。その結果、4月中旬時点で外出規制の達成率が82%と、国全体で8割を超えた。高齢者に1週間全く会わなかったという人の割合は9割を超えるなど、抑え込みのための活動は目標を達成した。

イギリスにおける新型コロナの流行は、5月初旬時点で「第一波」が落ち着き、医療機関の重症患者対応にも余裕が感じられるようになった。ところが、大きな問題が浮かび上がっている。高齢者向け介護施設での「高齢者大量死」という現象が生じているからだ。