「ルール施行はまだ不完全」
国際的な規制機関である金融活動作業部会(FATF)の事務局長 David Lewis氏が暗号資産(仮想通貨)業界サミットV20で開会の辞を述べ、その中で「FATFルールはまだ国際的に広く履行されているわけではない」として現時点での課題を説明した。
Lewis氏は、民間セクターに関してVASP(仮想通貨サービスプロバイダー)はまだリスクや要件に精通しておらず、ルール実装は比較的初期段階にあると指摘。
一方で、FATFの推奨する「トラベル・ルール」に準拠するための技術的なソリューション開発は進んでおり、様々な組織や同盟、技術標準、プロトコルなどが生み出されていることを評価した。
トラベル・ルールについては、まだグローバルで効果的に実施されてはいないとして、「ルールのすべての側面を網羅する包括的な技術的解決策」を迅速に開発する努力が必要だと、改めて呼びかけている。
トラベル・ルールとは、マネーロンダリング等防止のための国際的な電信送金に関するルールで、VASPには取引の際、送金者と受取人の情報を収集・交換し、その情報の正確性を保証することが求められる。
対象となるVASP間の仮想通貨送金で、国際的な本人確認(KYC)ルールが適用されることになる。
また、仮想通貨セクターは非常に技術変化と成長が急速で、テクノロジー、製品、ビジネス慣行の更新がめまぐるしく、新しく登場したものをよく理解し、新たなリスクを特定、効果的な国際標準を設計することも大切だとした。
規制に抜け穴を残す管轄区域が存在
さらに規制に抜け穴を残す管轄区域が存在していることも問題として挙げている。VASPは、国や地域などの法的な管轄区域間をすばやく移動できることもあり、ルールを適切に施行していない地域があることで、グローバルな規制が不完全なものとなることを指摘する形だ。
Lewis氏は世界標準に照らして各国を評価し「金融システムをリスクにさらし続けている国を名指しすることも躊躇しない」と付け加えた。
また、取引の匿名性を高めるために、分散型取引所、プライバシーコイン(匿名通貨)、ミキサーなどのツールが使用されることがあり、FATFは違法取引の特徴を示す指標も作成したという。
以上のような規制遵守の徹底を巡る課題の他に、これからのFATFの取り組みとしては、デジタルトランスフォーメーション(DX)の強化があるとした。
テクノロジーの進化により、マネーロンダリング/テロ資金調達の防止をより効果的に行い、リスクの特定や管理を改善し、データをより有効に活用することを探っていくという。
具体的には人工知能やビッグデータ分析などの使用を挙げた。
代替ソリューションを望む業界関係者も
FATFのトラベル・ルールには疑問を持つ業界関係者も存在しており、例えばシンガポールを拠点とする仮想通貨カストディ企業OnchainCustodianのCEO、Alexandre Kech氏は、「FATFが代替ソリューションにもっと耳を傾けることを望む」と語る。
SWIFTの元従業員であった同氏は、FATFルールは「SWIFTのような集中型ネットワーク」で行われていたものをベースにしており、仮想資産ベースのマネロンやテロ資金調達を防ぐためには、より良い方法があったと思うと意見した。
「ブロックチェーンで可能な取引監視により、他のVASPに顧客の機密情報を送信することなくAMLリスクを軽減する方法があった」と同氏は見解を述べる。
その一方で、各国の規制機関や民間団体の間で、FATFルールは着実に浸透しつつある。10月にも米国のVASP25社が、トラベル・ルールに対応するためのホワイトペーパーを発表した。FATFは、2021年6月にガイドライン実装に関する2回目のレビュー結果を公開する予定だ。
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