ブロックチェーンとCBDC
タイの中央銀行であるタイ銀行のデジタル通貨(CBDC)プロジェクト、インサノン(Inthanon)の上級開発者Vijak Sethaputが、実証実験で得た知見や課題について、独立系シンクタンクOMFIFのインタビューに答えた。インタビューにはCBDC間の相互運用性に焦点を当てたブロックチェーン・プラットフォーム「Cypherium」の創設者Sky Guoも加わり、分散型システムがCBDCの課題解決にどのように寄与できるのかについてそれぞれの考えを語った。
インサノン・プロジェクトの概要
インサノンはタイ銀行とタイの主要金融機関8行による共同プロジェクトで、同国の金融インフラ強化を目指し、分散台帳技術(DLT)の持つ可能性について調査すると共に、三つの段階に分けた実証実験を重ねてきた。即時グロス決済のプロトタイプ構築から、スマートコントラクトを使用した機能性の評価、そしてクロスボーダー決済の実証実験がそれぞれの段階で行われ、概ね成功し多くの知見を得ている。
現在、大企業との金融取引にCBDCを使用するなど、その実証実験は最終段階に入っているようだ。
クロスボーダー決済で判明した課題
香港金融管理局(HKMA)とのクロスボーダー送金の共同イニシアチブでは、従来のコルレス銀行ネットワークを迂回するため、コリドーネットワークを構築し(R3のCordaを使用)、CBDCトークンを使ったリアルタイム送金やアトミックPvP決済を実現した。タイ銀行のSethaput氏は、この実証実験で課題として見えてきたのは、DLTやスマートコントラクトの技術的な側面ではなく、香港とタイの通貨間における圧倒的な流動性の違いだったと述べている。
Guoは不均衡な流動性の問題は複雑だが、ブロックチェーン技術がサポートする即時決済とファイナリティ(決済の確定)、そして相互運用性を高めることで解決できると主張した。
DeFiモデルを参考に
さらにGuoは、スマートコントラクトにより、即時に利子の支払いが受けられる分散型金融(DeFi)モデルをCBDCにも応用できるのではないかと提案した。DeFiのリスクは、預け入れる仮想通貨の価格変動の大きさや規制が未整備であることなどだが、不動産や株式など資産を担保にして、CBDCでの融資を確保することも可能だと述べた。そして、このようなDeFiモデルは、CBDCに大きな流動性をもたらすと付け加え、Sethaputが指摘した流動性の欠如に対する一つの答えを提示した。
DeFiモデルについて尋ねられたSethaputは、DeFiの動向には注目しているが、CBDCへの応用には、顧客確認とプライバシーという二つの大きな問題があると指摘した。身元確認と匿名性の問題は、ブロックチェーンプロジェトで度々指摘されるが、Guoは、異なるレイヤーを使った分散型アイデンティティの開発が一つの解決策となると提案を行なっている。
CBDCプロジェクトの課題
インタビューの最後では、CBDCプロジェクトを遂行する上で、最も意外だった発見は何かと二人に尋ねている。技術畑からプロジェクトに参画したSethaputは、技術的には多くのことが実現可能なのに対し、法律やマクロ経済がプロジェクトの進展にいかに大きな影響力を持っているかという点をあげた。また、普及の大きな障害となるのは、多くの人々がまだ新しい技術に対して疑念を持っていることだと指摘した。
一方、Guoは、CBDCは現在、多くの国で調査や実証実験が進められているが、それぞれ目指す目的も利用方法も異なっており、スタンダードが確立されていないため、新たなインフラの整備が必要だと主張した。ブロックチェーンは、そのインフラとなる様々な要件を満たしており、異なるブロックチェーン間での相互運用性を高めることの重要性を指摘した。
出典:OMFIF
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