自治体がブロックチェーンで住民に証明書交付
福岡県飯塚市が、各種証明書をブロックチェーンで発行する試みを開始することが分かった。
7月3日、市内を拠点とする株式会社Chaintope、株式会社ハウインターナショナルと「各種証明書の電子交付に係る実証事業に関する連携協定」を締結。今後市民が参加する社会実験を開始するという。
コロナ禍で急速に進む新しい生活様式の中で求められる行政サービスのデジタル化は、市民の利便性や業務効率化、ペーパーレス化を促進する反面、現在のオンラインサービスでは安全・安心に活用できない点も指摘される。
電子データの信頼性を確保する仕組みをブロックチェーンを用いて構築し、新たな時代に活用できる行政システムの構築を目指すとしている。
ブロックチェーン証明書発行の仕組み
電子交付を利用申請した住民について、市は各種証明書を住民情報システムを通じてクラウド・サーバー上のシステムに保管。
市民は自分のスマートフォンを使って、いつでもどこでも自分自身の証明書をダウンロードして、身分を証明したい相手に提示することが可能となる。
証明書を提示された事業者は、インターネット上のトラストサービスを通じて、その証明書が不正に作成されたものでないことを確認できる。
このトラストサービスは、証明書のメッセージ・ダイジェスト(要約)に、飯塚市が電子署名したデータと台帳に記録した日時を保管するタイムスタンプの仕組みを基礎としている。
ブロックチェーン「タピルス」の特徴
タイムスタンプ情報は、Chaintopeが開発したパブリックブロックチェーンTapyrus(タピルス)によりインターネットに公開され、複数の自治体や事業者によって分散的に安全に管理される仕組みだ。
企業や行政がパブリックブロックチェーンを使う上では、主体的に管理を行うものがいないというガバナンス上の問題があるが、タピルスは事前に選定された複数の調整役によって運用されるため、機能変更などの意思決定を円滑に行うことができる、と説明されている。
またデータ書き換え等の不正が防止される設計やパブリックチェーンの特徴である透明性についても確保。今後処理速度やプライバシーの課題にも取り組んでいく予定だ。
飯塚市は、このブロックチェーン証明書を流通させるための社会実験を2021年1月~3月に行う予定。今年12月頃より飯塚市に住民登録している者を対象として公募を行い、事業者としては福岡県内で飯塚市の近隣にある大学や企業なども参加する見通しだ。
ブロックチェーン×古民家の「ブロックチェーンストリート」
飯塚市のIT産業との関わりは長い。
文化性・創造性を備えた国際的な情報産業都市を目標に、2003年に政府の構造改革特区の第一弾として「飯塚アジアIT特区」の認定を受け、2013年にアメリカ・シリコンバレーの一角であるサニーベール市と友好交流関係協定を締結、2016年には姉妹都市協定を締結するなど、最先端技術の導入も視野に入れた地域復興策を講じてきた。
2019年夏より、「ブロックチェーンストリート」構想が進められている自治体でもある。
今回の事業に携わる2社と市は、NHKの連続テレビ小説「花子とアン」でも有名になった旧伊藤伝右衛⾨邸前の⻑崎街道を中⼼に、古民家群を活用した「ブロックチェーンストリート構想」で連携。
古民家をコワーキングスペースやシェアオフィスとして活用、“仕事”と“暮らし”を融合させた、ブロックチェーンエンジニアや企業が連携できる環境整備を行っている。
将来ハッカソンやブロックチェーン関連のイベントも開催する予定。
市内にブロックチェーンの共同研究をできる大学が複数あること、起業支援の仕組みや施設があることを活かし、ブロックチェーン技術の学習、研究、起業及び実証実験、ネットワーキングまでを行える環境を提供することで、飯塚市を中心とした筑豊地域全体を「ブロックチェーンのシリコンバレー」とすることを目指すという。
最先端の技術であるブロックチェーンと、日本の伝統的な文化遺産である古民家の街並みを掛け合わせる斬新な試みとなる。
これまでハイテク企業は都市集中の傾向が見られたが、これからの新しいライフスタイル、また地方創生を開拓する仕組みとして、IT×古民家には今後も注目したい。
参考:プレスリリース
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