トレーサビリティーを使ってカーボンアカウンティングしよう|SBI R3 Japan寄稿

Blockchain
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~ブロックチェーンで世界を変えるための第21歩~

カーボンニュートラルな世界の実現に向けて、多くのスタートアップが取り組みを始めています。この地球規模の課題には複数の側面があり、単一の技術では全て解決できません。

さて、今回はカーボンアカウンティングと呼ばれる分野に注目して、ブロックチェーンという技術で何か貢献できるのかを考えていきます。

カーボンアカウンティングとは?

“アカウンティング”と言えば、財務会計(フィナンシャルアカウンティング)や管理会計(マネジメントアカウンティング)が馴染み深いかもしれません。

カーボンアカウンティングは“炭素会計”と訳すこともできます。が、分かりにくいので、そのまま片仮名でカーボンアカウンティングと呼びます。

カーボンアカウンティングは財務会計と対比して考えるとわかりやすいです。財務会計は財務諸表を作るために必要な数値の集計ルールです。

カーボンアカウンティングで財務諸表に相当する帳票は、統合報告書やESGデータブックと呼ばれる開示書類です。これらの書類には、”非”財務情報、例えば環境や気候変動、人権や人材育成、リスクマネジメントやコンプライアンスに対する方針、シナリオ分析、各種定量データが含まれます。

この中で、特に気候変動に影響ある温室効果ガス(GHG、GreenHouse Gas)排出量の算出・集計に関するルールのことを、カーボンアカウンティングと呼んでいます。

というわけで、カーボンアカウンティングしよう!というノリで取り組む分野ではありません。財務諸表を作成する時の重たさと同様、きちんとルールに則り開示するという意味で、「財務諸表がもう一つ増える」くらい大変なことが起きてしまっているのです。

現在に至るまでにおおまかな流れ

まずは、カーボンニュートラルが当たり前な現在に至るまでに流れと全体像を理解しておきましょう。

2015年12月のパリ協定(COP21、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議)から始めます。パリ協定では地球の温度上昇を、産業革命以前より2度以内に抑制するという目標が提唱され、採択されました。

しかし2018年10月にIPCC特別報告書 (IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)が発表され、残念ながら2度の温度上昇は不十分で、サンゴ礁の99%は消失してしまうし、北極の永久凍土の融解が止まらないことが判明します。温度上昇は1.5度以内に抑えないと、取り返しがつかないとの危機感が共有されました。

この流れで世界120か国以上がカーボンニュートラルを宣言(2021年4月時点)、日本も2020年10月に菅総理の所信表明演説において、2050年カーボンニュートラルが宣言されます。

一方、企業はこの温度上昇の要因である温室効果ガスをどれだけ排出しているかの開示を求められます。2017年6月にはTCFD(Task Force on Climate-Related Financial Disclosures、金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース)は最終報告書において、気候変動による財務的影響を把握し、企業の報告書(有価証券報告書や統合報告書など)の中で、温室効果ガスの排出量と関連リスクについて開示するよう求めています。

この温室効果ガス排出量は、自社が排出するもの(Scope1)だけでなく、自社が電気や蒸気などを消費して間接的に排出するもの(Scope2)、さらには自社が属するサプライチェーン全体での排出量(Scope3)も含めて開示するよう求められています。

このような背景があり、サプライチェーンを構成する企業は、一義的には温室効果ガス排出量の開示に向けて、カーボンニュートラルへの道を歩み始めました。ただ、この対応には長期的な投資が伴うため、開示に向けた一連の作業を単なる出費と捉えるのではなく、競争優位につながる取り組みへ昇華させようと模索しているのです。

カーボンアカウンティングは何が大変か?

さて、温室効果ガス排出量を集計するにあたり、Scope1, Scope2は自助努力でどうにかなりそうです。問題はScope3です。

建設、自動車、食品、ファッション、日用品業界において、温室効果ガスの8割以上はScope3から排出されているとのデータもあります。自社のガバナンスが及ばない他社の温室効果ガス排出量を、横断的に収集するにはどうしたら良いでしょう。

現時点で想定されているオペレーションは、一言でいうと”エクセル”による積み上げ方式です(もしくは推定)。

連結決算で親会社が子会社にエクセルの財務諸表テンプレートをばら撒くのと同じです。バイヤーは1次サプライヤーにエクセルの報告書フォーマットをばら撒きます。

1次サプライヤーはさらに2次サプライヤーへと連鎖してバケツリレーが続きます。同業他社のバイヤーも同じことをします。

結果、サプライヤーには無数のエクセルフォーマットが五月雨で届きます。当然、このオペレーションは様々な課題を引き起こします。

サプライヤーにとっての課題:

  • 温室効果ガス排出量の計算は膨大であるため、統一的に計算できているか確証が持てない
  • 温室効果ガス排出量の計算をエクセルでする限り、ヒューマンエラーは回避できない
  • 温室効果ガス排出量のデータ収集は、報告のための報告であり、自社製品の価値向上に繋がらない

バイヤーにとっての課題:

  • サプライヤーから大量のデータを受け取るため、データが本当に最新なのか確証が持てない
  • サプライヤーが温室効果ガスの排出量を正確に算出しているか検証できない
  • サプライヤーから報告された数値を集計する手間が大きく、集計ミスが発生する余地がある

サプライヤー、バイヤーに共通していること:

  • 将来的な監査に耐えうる証跡としては不十分

というわけで、直近の自主的な開示・報告は凌げそうですが、将来、より厳格な開示へ移行するタイミングで、“温室効果ガス排出量データ偽装問題”が噴出する可能性は否定できません。

ある日突然取引できなくなる。

温室効果ガスの排出量を開示するしないに関わらず、自社の製品・サービスに係る排出量データの表記は必須になってきます。なぜなら、顧客に選ばれるための判断基準としてこの数字が使われるからです。

もしバイヤーが求める基準を達成できない場合は、代替サプライヤーへの切り替えもあり得るでしょう。このようにカーボンニュートラルに向けた対応は、単に開示のための作業が増えるだけでなく、これまでの固定的な取引関係自体にも影響が出てきます。

このような危機感からサプライチェーンにおけるリーダー企業は一歩踏み込んだ動きに出るでしょう。例えば、温室効果ガスの排出量が多すぎる製品であれば、設計段階から製造プロセスといった社外秘の分野に口出ししたり、物流に伴う温室効果ガス排出を避けるためにサプライチェーンの垂直統合を提案したり、銀行を巻き込んだグリーンローンやサステイナブルファイナンスを可能とするエコシステムの形成を主導するなど、サプライチェーンに変革をもたらす取り組みを仕掛けてくるでしょう。

ブロックチェーンの出番ある?

実はこのサプライチェーン改革に役立つ技術がブロックチェーンです。ブロックチェーンは、企業間で安全に情報を共有する技術です。温室効果ガスの排出量そのものや、その起源となる材料や活動量に関するデータを共有するツールとして使えます。

ただ、温室効果ガス排出量算出のためだけにブロックチェーンを導入するのはあまりにも大袈裟です。そこで、近年注目されているトレーサビリティーの取り組みの活用するという考え方があります。

トレーサビリティーデータの活用

多くの場合、トレーサビリティーは手作業で寄せ集めたデータを自己申告で証明するしかありません。寄せ集めるデータの信頼性は、データの持ち主の信用とイコールになります。

これはサステイナブルではありません。そこで、ブロックチェーンを使ったトレーサビリティーを実現することで、データの信頼性をデータの持ち主ではなく、データそのものに持たせます(これがブロックチェーンの良いところ)。

このデータは1社だけが書き込むのではなく、サプライチェーンに関わる複数の事業者が、合意に基づいて記録し続けていきます。結果、データが独り歩きしてトレーサビリティーを証明することができます。

このトレーサビリティーデータは本来の目的だけでなく、温室効果ガス排出量算出の元データとしても活用できます。つまり、サプライチェーンを構成する企業はScope1, Scope2の源である原材料と加工に係るデータをバイヤーに共有します。

バイヤーはこれらのデータに基づいて温室効果ガスを自ら算出して、Scope3の排出量を計算するのです。

メリットはコスト削減だけではない?

このようにトレーサビリティーデータを活用することで、企業横断での温室効果ガス排出量の計算をリアルタイムかつ正確に行うことができるようになるでしょう。その結果、開示に伴う必要データの収集、分析作業は短縮され、業務コストの削減にも繋がるでしょう。

ただ、これだけに留まりません。この企業横断での取り組みは、バイヤー-サプライヤー間の協働関係を一段進化させる可能性があります。

「バイヤーから言われたので報告する」のか、「デジタル時代の利点を最大に生かし、エコシステム全体の競争優位に貢献する」のか、この一歩を踏み出せる企業が今後も選ばれ続けていくでしょう。

寄稿者:山田

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

 

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