世界で注目が高まるCBDC
中国や欧州諸国、アメリカを中心に、世界中でCBDC(中央銀行デジタル通貨)への関心が高まっている。21年に入ってからは特にCBDC関連のニュースが増加しており、米連邦準備理事会(FRB)のJerome Powell議長がCBDCへの取り組みおよび主要原則について言及したことなどからも、注目度および重要度の高さが窺える。日本も例外ではなく、日銀はこの春からCBDCの実証実験を開始することを発表している。
このような状況を背景に、ブロックチェーンプロジェクトのアルゴランド(Algorand)は、主に分散性の観点からCBDCを分析。ブロックチェーン技術を基盤にしたCBDCプロジェクトの成功に不可欠な重要ポイントを列挙した。
分散型技術を基盤にしたCBDCの利点
アルゴランドは、従来の中央集権的決済システムは、参加者が求める要件に追いつくことができなくなっているとの見解を示している。中央銀行が現代のニーズに沿ったインフラを構築するためには、CBDCプロジェクトでの分散型台帳技術活用が必須であり、これにより以下の5つのメリットが提供されると述べた。
ネットワークの安定性(単一障害点の排除)
分散型ブロックチェーンシステムを活用することにより、単一障害点が取り除かれるため、決済インフラが既存の中央集権型システムより安定すると考えられている。
単一障害点がシステム内に存在することによる課題は以前からも指摘されているが、今年2月23日に米国の連邦準備制度のオペレーションにエラーが生じ、数時間にわたりシステム全体の利用が不可能になった際に、そのリスクは顕著に現れた。アメリカ中の銀行が連邦準備制度に依存しているため、連邦準備制度に障害が発生してしまうと、特に重要な支払いの締め切りなどが迫っている場合などは、多くの人に多大な損害が生じる可能性がある。
分散型インフラでは、ネットワークを支えるマシンの多様性が確保されているため、単一の脆弱なマシンが標的となることにより、システム全体が崩壊してしまうというリスクが軽減されている。
セキュリティ
分散型台帳の特徴の一つが、不正が不可能であるという点だ。
集権的台帳システムでは、データベースがハッキングされた、または不正にアクセスされた場合、台帳が不正に書き換えられる懸念がある。一方で、コンセンサスプロトコルに従って新規ブロックが追加される分散型台帳技術では改ざんが不可能なため、トランザクション記録の不正を防ぐことができる。
コスト削減
中央集権的なシステムと比較し、ネットワーク構造の維持に必要な条件が軽度であること、システムの管理要件が簡素化されていること、開発者の参入コストが低いことなどから、分散型決済システムでは、運用コストに加え、技術のメンテナンスおよびアップデートにかかるコストが削減できる。
イノベーション促進
前項で述べたコストの低さに加え、分散型台帳技術基盤のシステムでは、既存の中央集権的システムよりも柔軟性が高いことから、新規ユーザーおよびユースケースへの対応が以前よりも簡単になっている。これにより、競争およびイノベーションが促進され、その結果さらなるコスト低下も見込まれている。
透明性
分散型台帳の透明性により、中央銀行は以前よりも簡単に、データ分析を用いて不正や詐欺を検出できるようになる。ブロックチェーン上の取引履歴を検索し、そこから得られた情報を利用して政策および規制強化が可能になるため、透明性が高いという分散型台帳の特徴は、政治的に大きな意味を持つようになるだろうと推測される。
実用的なCBDC利用への課題
メリットが提供されている一方で、新たな技術の導入には課題も付随してくる。アルゴランドは、分散型インフラを活用したCBDCを普及させるにあたり、特に解決すべき課題として、以下の二つを挙げた。
トランザクションのファイナリティ
ファイナリティとは「ある決済が確定すること」を意味し、一般的にブロックチェーン分野では「トランザクションが覆らない状態になること」を指している。従来の決済システムでは、「決済が確定した」と決定する権力を持つ組織や機関が存在しているため、即座に決済が可能だが、多数の参加者でコンセンサスを形成する分散型のブロックチェーンにおいては、フォークの可能性が排除されるのを待たなければいけないため、ファイナリティ形成に時間がかかってしまう。
スケーラビリティ向上
国家レベルの経済で見込まれている取引量を確実に処理するためには、スケーラビリティ向上が不可欠だ。例えば、約5,000万人のCBDCユーザー(韓国の人口と同程度)が1日に数回の取引を行う場合、CBDCシステムは1秒あたり平均1,500件の取引を処理しなければならない。これは、今日の標準的なPoW(Proof-of-Work)ブロックチェーンにおける処理能力の100倍以上に相当する。
インフラとしてのCBDCに必要な基本設計原則
アルゴランドは、CBDCを単なる決済手段ではなく、インフラとして見るべきだと主張している。CBDCに適切な経済および技術的原則を組み込むことにより、決済のみに限定されない、多用途のデジタルインフラが構築されるという。
汎用なCBDCインフラ構築にあたり、アルゴランドは、上記の分散型システムの利点および課題を前提に、以下の5つのポイントをCBDC設計時の基本原則として考慮すべきだと述べた。
- 性能を落とさずにセキュリティを保証した分散型システム
- ユーザーにより競争およびイノベーションが促進されるインフラ
- 経済的かつ包括的なアプローチ
- オープンソースでありながらも中央銀行がCBDCの完全な管理権を掌握
- 統合および相互運用性が保証された柔軟性の高いインフラ
アルゴランドブロックチェーンを活用したCBDC
実際にアルゴランドのパブリックチェーンを利用しているCBDCプロジェクトの一つが、太平洋に浮かぶ島国、マーシャル諸島共和国の「SOV(主権を意味するSovereignの略)」プロジェクトだ。
マーシャル諸島の議会は、18年にSOVを法定通貨とする法律を可決。20年3月には、SOV開発担当組織であるSFB Technologiesが、SOVの基盤となるブロックチェーン技術に、アルゴランドのブロックチェーンを採用することを発表している。今後開発が進みSOVが実際に発行されると、現在流通している米ドルと並行して国内で流通することになる。
SFB Technologies曰く、アルゴランドのプロトコルは、CBDC発行に必要なスピード、スケーラビリティおよびセキュリティに加え、法令遵守管理機能およびトランザクションのファイナリティを効果的に実装できる性能を有していることから、アルゴランドブロックチェーンを選択するに至ったという。
この選択に関して、SFB Technologiesの共同創設者兼CTOのJim Wagner氏は、以下のように語っている。
先進的なプロトコルの中から、莫大な市場調査を行いアルゴランドを選出した。アルゴランドは既に主流のユースケースをいくつか支えており、独自の特徴により、SOVのグローバルな発行、管理および流通に必要な機能がプラットフォームに備えられている。アルゴランドと提携したことにより、スケーラブル(規模拡大可能)で安全なプラットフォーム上でのSOV構築が、可能になるだろう。
マーシャル議会で議長を務めるKenneth Kedi氏も、アルゴランドとの提携について、以下のコメントを出している。
アルゴランドとのパートナーシップ提携を嬉しく思う。SOVプロジェクトを発展させるための強力な同盟が結ばれた。これは、マーシャル諸島の金融サービス業界発展における、一つのマイルストーンだ。
アルゴランドはSOVプロジェクト以外にも、10以上の政府または中央銀行とCBDC発行に関する協議を進めているという。また、CBDC関連イベントでの啓蒙活動にも注力しており、4月には、中銀や金融政策に関するシンクタンク「公的通貨金融機関フォーラム(OMFIF)」が主催する、中銀およびデジタル通貨に焦点を当てたシンポジウム「The inaugural DMI Symposium」に参加予定だ。
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