取引所の取引中止事例
米証券取引委員会(SEC)がリップル社に対して、証券法違反として提訴していることを受け、一部の取引所が暗号資産(仮想通貨)XRPの取引を中止するなど、影響が見られている。
米証券取引委員会(SEC)が23日、リップル社やGarlinghouse CEO、共同創設者のChris Larsen氏を相手方として正式に訴訟を起こしたことを明らかにした。
SECは、2013年から約7年間に渡って、有価証券登録を行っていない仮想通貨XRPを販売し、1300億円を超える資金を調達したと主張している。
仮想通貨の有価証券問題に対して、米SECがアクションを起こしたのは今回が初めてではないが、リップル社の事例を専門家らはどのように見ているのか?内容をまとめた。
SECが公開した文書の注目ポイント
SECの訴状をの注目ポイントについては、弁護士のPalley氏が分析。SECの主張における複数の要点をまとめている。
- 2012年、リップル社はXRPが有価証券に該当する可能性に関する法的助言を法律事務所から受けていた。
- SECにとっての中央集権性:リップル社と役員はXRPの販売で720億円以上の利益を得ていた。
- SECにとっての中央集権性:2018年3月、Garlinghouse氏がCNBCの番組に出演し、「リップル社はXRPを大量に保有しているため、XRPの成功を望んでいる」と発言した。
- XRPの上場のために、2017〜2018年の間、10社以上の取引所に上場手数料を支払っていた。
- 個人に対しては、Larsen氏および妻がXRPの販売で約470億円の利益を手に入れた。
So, this Ripple lawsuit, let’s talk about it, shall we? pic.twitter.com/kq8NLtrJ5x
— Palley (@stephendpalley) December 22, 2020
訴状内容から、SECが特に問題視したのが、リップル社によるXRPの販売方法である。SECは、リップル社が投資家に一部、重要な情報開示を行なっていないと指摘している。
SECが訴状に挙げた一つの例には、日本の事例も含まれた。内容によると、2018年9月に日本の「機関投資家C」に2018年11月1日〜2021年11月1日の間、最大約800億円分のXRPを、市場流通価格の15%〜30%安く購入できる契約を結んでいた。
これは、世界の仮想通貨交換業者に対し、販売網を設けるインセンティブ・プログラムの提案に関するものであると見られており、日経新聞は、「業者は流通市場で仕入れるよりも1~3割安く仕入れられる一方、リップル社にとっては発行コスト少なく資金を得られる」として、これを紹介した。
この報道を受け、bitFlyerやCoinCheck、GMOコインといった日本の交換業者が同プログラムに参加していないとの声明を発表している。
一部報道において米リップル社が XRP を市場価格より低価格で仕入れられるインセンティブプログラムを日本の暗号資産交換業者に提案していた、との記事が掲載されていますが、当社ではそのようなプログラムは受け入れておりません。
— bitFlyer(ビットフライヤー) (@bitFlyer) December 23, 2020
訴訟の影響は
なお、今回、訴訟による影響で注目されるのは、単なる罰金で和解に至るかどうかだ。
過去の事例では、EOSやKinなど一部の仮想通貨銘柄について、SECに対し罰金を支払い、有価証券問題で和解に至った事例がある。
仮想通貨弁護士のJake Chervinsky氏はSNSで、EOS事例の背景とXRP訴訟の関連性について、「EOSの件では、有価証券とみなされたのは、ERC20版のEOSで、SECと和解を行う時はすでに利用されなくなったため、SECの追及対象ではなかった」とコメント。「EOSの事例は、単純にXRPの訴訟で参考になる事例ではない」と指摘している。
We’re already *way* off the EOS track.
There’s a huge difference between settling an enforcement action behind closed doors (as in EOS) vs. taking the SEC to court.
Not to mention the SEC appears to be charging Brad Garlinghouse & Chris Larsen individually, which is quite rare.
— Jake Chervinsky (@jchervinsky) December 22, 2020
XRP・リップル社をめぐる訴訟がなぜ以前のEOSの取り締まりと異なるか。Chervinsky氏は、訴訟の対象になったことなどに理由があると説明する。
EOSに対する取り締まりでは、裁判における訴訟ではなく、いわゆる「取り締まりの施行」に留まっており、クローズドアで罰金による和解で解決された。
一方、訴訟に発展している事例では、カナダの仮想通貨関連企業Kik社のKINトークンがある。実際裁判所によって有価証券と判断され、SECの勝訴となり、和解の手続きでは、Kik社が約5.1億円の罰金支払いに同意した。SECはKik社に対し、KINのネットワークのシャットダウンや、有価証券として再登録することを規定していないが、KINトークンは米国の取引所には上場しなかったことから、XRPの事例に当てはめて推測できない点になる。
また、XRPの訴訟のケースでは、Garlinghouse氏とLarsen氏も提訴の対象となっている点について、Chervinsky氏は個人に対する提訴は「稀だ」とコメント。KINトークンの場合、相手方はKik社で、EOSの場合でも、発行企業Block.oneに対して取締まりを実施した点を相違点として紹介した。
その上で、影響として懸念される内容としては、有価証券と判断されたケースで、米国のライセンス取引所の対応や、XRPのトランザクションに対する影響などを指摘している。
取引所の対応事例
取引所の対応については、米最大手仮想通貨取引所コインベースの対応方針に注目が集まる状況だ。ポイントは、コインベースが現在行うIPO申請のステータスにある状況の中での対応方針である。
コインベースは現在、IPO(新規公開株)の申請に向けて準備を整えている。先日、証券登録届出書の関連書類をSECに提出、コインベースはメガバンクのゴールドマンサックスと連携し、上場申請を行う計画(報道)をしている。IPOを審査するのも、SECであることから、コインベースが訴訟の矛先にあるXRPの取扱いを再考する可能性を懸念する声が上がる。(セキュリティトークンの取扱いに関するCoinbase方針とその適用範囲も要検討事例)
Coindeskの取材に応じた仮想通貨サービスプロバイダーTritumのJohn Willock CEOは、「XRPが有価証券と認定された場合、多くの取引所で取引できなくなる可能性が高い」と懸念した。中華系大手取引所OKExのJay Hao CEOは今後のXRPの上場再考についてはコメントを控えたが、「セルオフによって、大幅な価格下落は回避できないだろう」と答えた。
一方、上場廃止に至らない意見もある。経済学者および仮想通貨アナリストのAlex KrugerはSECの訴訟が進行している間、上場廃止を受ける可能性が低く、主に短期的に価格への影響がみられるとコメントした。
仮想通貨弁護士のCollins Belton氏は、「米国の大手取引所が取り扱っているからといって、その仮想通貨資産の法的ステータスが必ずしもクリアになっているとは限らない」として、不透明性が強かった米国規制下の影響は、今後徐々に整備される流れに繋がるとの考えを示している。
I actually have stopped hating on $XRP for some time now, but I am praying that this finally, irrevocably gets people to stop pointing at large US exchanges listing an asset as something being safe. This is now going to be my go to. Every. Single. Time.https://t.co/HoqSjj66E1
— Collins Belton (@collins_belton) December 22, 2020
また、小規模取引所ではあるが、上場を廃止・検討する事例も出てきている。
6月にバミューダで設立された取引所CrossTowerは23日、XRPの有価証券ステータスが明確ではないため、上場廃止を実施。米シカゴ発のBeaxyで、XRPの取引サービスを一時中止する対応を行なった。再開に関しては、「追って通知する」としている。
Beaxyは声明で、「SECとリップル社はXRPの法的ステータスについて長年議論してきたため、訴訟は予測できないものではなかった。しかし、Beaxyはコンプライアンスを守る義務がある。仮にXRPが証券ではないと判断されれば、取引は再開する」と説明している。
ODLへの影響は
Chervinsky氏が影響として注目すべきポイントに挙げたのは、有価証券問題を巡る米国下のトランザクションの問題もある。
「仮に有価証券と判断された場合、XRPは米国におけるトランザクションなどでほぼ利用できなくなる可能性が高い」と予測しており、取引所の対応にも関連して、XRPを使った送金ソリューションODLの利用に対する影響を注視しているとした。
これは、有価証券になった場合、XRPはトランザクションのブリッジ通貨として利用できるかどうかといった問題だ。米国経由で、ODLを通した米ドル=外国通貨の送金ルートで、システムの一部を担う取引所を介して、XRPから米ドルに換金する流れに影響が出る可能性を指摘したものになる。
一方、リップル社側の見解としては、11月末にポッドキャスト番組に出演したGarlinghouse氏が、仮想通貨XRPが規制当局から有価証券と判断されたら際に影響についてコメントしている。有価証券性の影響を受けるのは、「On-Demand Liquidity(ODL)」だけであるとした上で、この問題についても、米国規制に則ってブローカー・ディーラーの認可を取得することで対処できると回答している。
ODLを利用する送金企業について
特に、この分野で注目されるのは、リップル社の出資企業である送金企業だ。
理由はSECは訴訟文書で、ODL利用企業についての言及も行なったためである。文書では、「ODLのオンボーディングは市場需要に応じて行われたのではなく、リップル社の助成金によって成り立っている」と指摘。「送金業者は、リップル社が未登録有価証券XRPを販売する媒体とされ、リップル社は代わりに人為的なXRPのユースケースと出来高といった宣伝材料を得ていた」と主張した。
一部の海外送金にXRPとODLを利用するマネーグラム社の代表者は、Coindeskのインタビューに対し、「SECの訴訟の進展に注意を払っている」とだけコメントしている状況だ。
リップル社の声明
リップル社はSECの提訴について、公式声明を発表している。
声明を執筆したのはGarlinghouse CEOである。同氏は声明に、リップル社の弁護士のコメントを掲載。内容を以下に紹介する。
SECは事実に関して、完全に間違っている。
XRPは、SECがビットコインとイーサリアムを認定したように、通貨であり、投資契約(有価証券)ではない。以前SECが「Howeyテスト」を基準として取り締まっていたICO銘柄の事例とはまるで違うものだ。
ーAndrew Ceresney,Debevoise & Plimpton
法律論争として、SECの指摘と主張は間違っている。
すでに、司法省と財務省のFinCenを含む米主要政府省庁がXRPを通貨とみなしているため、XRPのトランザクションは連邦証券法の管轄外にある。今回がSECが管轄を超えて取り締まる初の事例ではなく、裁判所は以前、一部の論争でもSEC側が不適切だと判断していた。
ーAndrew Ceresney,Debevoise&Plimpton
また、リップル社の株主に当たるSBIホールディングスの北尾代表は22日、訴訟に関する報道を受け、「日本の金融庁はXRPが証券ではないと既に明言しています。米国においても、Ripple社が最終的に米国で勝利を勝ち取ると強く信じています。SBIホールディングスは引き続きRippleの確固たるパートナーとして、共にアジアで事業拡大に取り組みます。」とコメントしている。
日本の金融庁はXRPが証券ではないと既に明言しています。米国においても、Ripple社が最終的に米国で勝利を勝ち取ると強く信じています。SBIホールディングスは引き続きRippleの確固たるパートナーとして、共にアジアで事業拡大に取り組みます。 https://t.co/MFRxLLAZdG
— 北尾吉孝 (@yoshitaka_kitao) December 22, 2020
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