JBA理事、LayerX代表取締役の福島です。
本日は最近のエンタープライズでのブロックチェーン活用事例を紹介します。
個人のnoteでも約10ヶ月前にも似たような記事を書いています。
あれから10ヶ月。世の中ではだめだ、だめだといわれている?(筆者は全くそう思ってませんが)ブロックチェーンも確実に現実で動くシステムに実装されていっています。
一方で、エンプラ最前線では「ブロックチェーンを使った〇〇」「Why Blockchain?」みたいな浮世じみた言説も減ってきいます。技術選択のひとつとして、こういう優れたところがあるから使おう、ここにはオーバーキルだから使わないようにしようという流れになっています。
これはともすると当たり前の話でして、「RDBを使ったSNS」といった宣伝は世の中では全く聞かれないと思われます。また「RDBじゃないとSNSは実現できないのか?」「RDBだけにしかできないことを考えないとだめなのではないか?」という全く意味のない議論も聞かないと思います。
あくまで顧客の課題を解決するために、相対的に選ばれる技術の一つとしてのブロックチェーン事例なんだなと思って読んでみてください。
2020年6月-9月のブロックチェーン動向
以下、個別のトレンドを社内(LayerX社)レポートより一部抜粋していきます。
中央銀行(CBDC)
日本でも日銀が実証実験の開始を検討で、話題になりました。(中央銀行デジタル通貨に関して詳しくはこちら)
日本以外にも、これだけのニュース・発表が2020年6-9月の3ヶ月間で行われています。なぜCBDCにブロックチェーンを使うのという話に関してですが、筆者は上述の記事で解説していますのでそちらを引用します。
それはお金・決済という公共性の高いシステムに対して求められる、検証性・監査性を高いレベルで実現するため、と私は考えています。ブロックチェーンはトランザクションをつないでいく台帳構造をもちます。
仮に、中央銀行のみがブロックを作れる存在であったとしても、そのブロックの中身自体は誰もが検証可能です。過去にこういった取引があったという履歴が改ざんされずに確実に記録されていきます。
こうすることで中央銀行が仮に勝手に取引の中身を改ざんしようとしたり、発行量を変えようとしてもその事自体は検知されます。(まああまり想定されないかもですが、究極的な耐性をもつということです。)
またCBDCはその性質上、さまざまな商取引、経済活動で使われていくでしょう。その際、最悪裁判であらそった際、究極的な証拠はこのCBDCの台帳にあるデータです。
こういったデータは究極的に信頼できるマスタデータ(ゴールデンソース)である必要があります。その要件には当然、データの完全性や可用性、検証性などがもとめられるでしょう。
こういった機能をそもそもインフラとして提供してくれるのがブロックチェーンです。わざわざスクラッチでこういったものを用意するよりも、一部機能だけ使うとしても乗っかる方が安上がりだといった発想になると思います。
(これはどんな技術にもいえることで、例えば表計算ソフトを使うとき、この機能を使ってないから表計算ソフトを使うのは適さないとは誰も言わないと思います。大半の人は一部機能のみ使うものでしょう)
またこれは副次的な要素でありますが、(ある程度こなれた)ブロックチェーンに乗っかること自体が大きなメリットになりえます。ブロックチェーンを構成する個々の要素(暗号技術、分散DB、コンセンサスアルゴリズムetc)はOSSで作られています。
これらは十分にいろんな攻撃に耐えたという実績がある検証されたものがそのまま使えるというメリットがあります。これをフルスクラッチで構築し直すには膨大なコストがかかるでしょう。
またその周辺で生まれるインフラ運用のノウハウ、様々なソフトウェア技術や便利なミドルウェア的なものも数多く生まれています。これらの高速道路に乗っかることで、より便利で、セキュアなアプリケーションが高速に低コストに作れるというメリットが、時が進めば進むほど大きくなるでしょう。
ある種のブロックチェーンというエコシステム自体に乗っかることが、全体のエコシステム構築のコストを下げていくといったことが、(インターネットの世界で起こったように)起こっていくこと、またその変化にのれることでどんどんアップデートされていくというメリットははかりしれないでしょう。
これらが各国でCBDCにブロックチェーンの適用が検討されている理由だと思われます。
金融分野
ブロックチェーンと金融機関の応用は相性が良いとされていますが、このように様々な分野に適用されています。注目していただきたいのは「実証実験」ではなく、「発行」であったり「ローンチ」であったり、すでに実運用にのっているという事実です。
非金融(産業分野)
非金融分野では、サプライチェーンでのトラッキング、企業活動におけるinvoiceや電子契約などのバックオフィスの効率化への適用、貿易における元本性の必要な書類をデジタル化することでの効率化などです。
非金融(行政分野)
行政分野では、電子証拠としての「司法」への応用、免許証などの「アイデンティティ」、電子投票や行政手続きなどの「行政のデジタル化」などに応用が進んでいます。
トレンドを振り返って
2019年の事例と比較しても、「これが目新しい」「こんな新しい斬新なものが出てきた」みたいな印象を筆者は受けませんでした。
一方事例のバリエーションは増えてませんが、各々での実装が着実に進んでるとも感じます。一部日本で(過大に?)いわれるような、トークンエコノミーが世界を変える、ブロックチェーンを使うことでなんでもできる、みたいな浮世離れした事例も少ないこともわかります。
ブロックチェーンはあくまでSoR(System of Record)を司るので、おそらく皆さんが思っているよりも地味ですが、確実に業務の効率化、透明化やガバナンス向上などをもたらしてくれるものとして実装が進んでいくでしょう。
2019年の動きと比較しても、単なる実証実験ではなく、一部でもいいのでしっかり現実に使ってみようという動きが加速しているように感じます。それに伴いしっかりと「プロダクト」として「顧客の課題を解決すること」が着実に進捗しているなと感じます。
筆者の関わりがある会社でも、まともな会社ほど「まずブロックチェーンという単語を忘れてください。….このソリューションはあなたのこういった課題をこう解決してくれるものです」という(ある種当たり前の)話を聞く機会が増えています。
逆に最悪なのが「ブロックチェーンを使うとこういう事ができる」「ブロックチェーンでなにかDXできませんか」というような、宝探し的な、トンカチで叩ける釘を次々に探していくような姿勢です。こうすると「ブロックチェーンにしかできないことはなにか?」「Why Blockchain?」といったような、顧客の課題とは一切関係ない、無意味な問いに多くの時間を使ってしまうことになります。
特にエンタープライズでのブロックチェーン適用で、「ブロックチェーンにしかできないこと」などありません。ですが、「ブロックチェーン」を使うことで今までより容易に実現できること、運用でカバーしていた面をシステムでカバーしやすくなること、透明性やガバナンスが向上されること、などメリットは十分にあります。
そして、その事実を証明するように、この3ヶ月で、ピックアップするだけでもこれだけの社会実装が進んでいるというのが「リアル」なのではないでしょうか。
福島良典@LayerX
画像はShutterstockのライセンス許諾により使用