「人々の努力」を反映する株式市場
「長期には株式投資が最も報われる」。米ペンシルベニア大学経営大学院のジェレミー・シーゲル教授は、これを証明し、インデックス派の理論的支柱として活躍してきた。彼は200年以上にわたる米国株の長期リターンを研究した結果、株式の長期投資がもっとも儲かることを明らかにした。
本稿では、私が校長をするオンライン金融スクール「GFS」で、シーゲル教授が講義した投資の本質について皆さんに紹介したい。シーゲル教授の講義収録は昨年9月で、コロナショック以前のものだ。しかしその内容は、いまだけでなく、5年後でも10年後でも通じる内容だ。コロナ相場で投資に関心を持つ人が多い今こそ、普遍的な投資の知識を皆さんにお伝えしたい。
さて、まず彼に日本の投資家へのメッセージを紙に書いてもらった。
これは彼が普段から「債券よりも不動産よりも金よりも現金よりも、株式投資が最も利益が出る」と言っていることの理由を示している。人々が明日をよくしようと努力する限り、それは企業活動にとってプラスとなり、そのプラスは企業の利益を生み出し、その利益は株価を押し上げるということだ。
債券や金や不動産では、この人々の夢や希望を追うための努力が価格に反映されるということは少ない。資本主義社会において、株式会社とは人々の努力を反映する仕組みなのだ。
過去200年の米国株の平均利回りは6.7%
実際に、株式投資はどのくらい儲かるのか。
これはつまり217年間で米国株は平均6.7%の上昇率であることを示している。さらに言えば、この数字はインフレによる上昇は既に除去しているため、実質利回りとなっている。ちなみにこの間の米国のインフレは平均して1.4%であったため、名目の株価成長率は8.1%である。
彼は続ける。
国債と金の場合の実質利回りは、年間平均でそれぞれ3.5%と0.6%であった。株式投資と比較してあきらかに低利回りなのだ。
コロナ相場の今、何に投資をしようかと悩む人も多いだろう。投資に興味をもち、安心感がある債券に投資をしようとする人も多いだろう。金が高値を更新しているため、金に投資をしようとする人も多いだろう。あるいは、日本の銀行や証券会社からさまざまな投資信託を勧められることもあるだろう。そんな時、このシーゲル教授の揺るぎない長期リターンの研究結果が1つの参考になるのではないか。米国株という投資対象をどうするか悩む時に、背中を押してくれることだろう。
そもそも米国の株式市場は特殊なのだ。他の国とは事情が異なる。FacebookもAmazonもGoogleもNetflixもAppleも、中国など一部を除き、世界中で愛されている。世界が成長すれば米国企業の売上と利益があがり、それが株価上昇の要因となっているのだ。
世界一の株式投資家であるウォーレン・バフェット氏は2017年にこのように株主へ説明した。
「240年前から米国は人々の創意工夫、市場制度、才能豊かで野心的な移民と法の支配が豊かさをもたらしてきた。過去何度も言ってきたが、この先もこう言うだろう。今日米国で生まれた子供は、歴史上でもっとも幸運だ」
シーゲル教授もこの言葉に賛同するという。シーゲル教授の言葉はこうだ。「アメリカは高齢化しているが、インドなどの途上国の成長が、アメリカの成長を助ける」
※1ドル110円換算、2019年9月時点、以下同様。
変動率の高さ=利益率の高さ
株式投資が最も利益が上がる理由をシーゲル教授は別の角度から解説してくれた。
ベータとは簡単に言えば、変動率だと思ってほしい。変動率が大きな資産を人々は避ける。リスクを取りたくないからだ。
一方で変動率が低い資産については、人々は安心して投資をする。例えば債券だ。ここから何が言えるのか。債券を例にとれば、人々は債券に対して安心して投資をしているので、債券の価格は常に高めになっているということ。債券の価格が常に高めということは、常に利益は出にくいということだ。
一方で株の場合は、人々が安心して投資をする対象ではない。よく「株式投資は余裕資金でやりましょう」と言われると思う。株は短期的に見れば、価格が上がることも下がることもあり、リスクが高いからだ。そうなると、皆さんからは「その変動率が怖いから株式への投資は控えたい」という声があるかもしれない。
しかし、ここでシーゲル教授の長期リターンの研究結果を見てほしい。短期的には変動率が高いことはリスクだが、長期的には変動率が高いことが利益となる。ゆえにご高齢の方などあまり長期投資を考えられないという人は確かに株式投資の配分は減らすことに合理性はある。だが、あなたがまだ現役世代なら、株式投資を考えない手はないだろう。
いま、米国株は買いなのか?
さてここで皆さんは「米国株には投資をしたいけども、米国株が割高な時は避けて、割安な時に投資をしたい」と考えるかもしれない。
株が割高か割安を示す指標としては、「PER」が有名だ。PERとは企業が生み出す利益に対して株価が何倍になっているのかということを表す。PER20ということは企業が生み出す利益の20倍の株価になっているということだ。
ここ10年の米国株はPERが平均的に20倍前後となっており、割高感があると一般に言われていた。それは過去150年の米国株PERの平均は15倍だったので、今が割高のように思えてしまうのだ。この記事を書いている2020年5月時点でもS&P500のPERは約20倍となっている。では今、米国株投資はしない方がいいのだろうか?
これに対してシーゲル教授は明快な答えをくれた。
これはどういうことか。つまりPER15倍だった時の時代は、ETFやインデックス投資というものは存在せず、取引コストが年間1~1.5%掛かっていたり、そもそも取引の流動性が少なかった。今は、手数料は0.1%であったり、ETFのおかげで流動性も高い。これを考慮するとPERは18~20というのが新しい標準的なPERの数字となるだろう、ということである。ゆえに現時点で20倍だとしても、それはあまり気にする必要はないのだ。とくに今はコロナの影響で企業の利益が一時的に下がっているので一時的にPERがあがりやすい。来年の後半ぐらいには正常化したPERを見ることが出来ると思う。
どんな企業に投資すべきか?
ここまでは米国株の平均的な上昇について説明をしてきた。では、個別の企業の株に投資をしていく場合、どのような企業に投資をすべきなのか? シーゲル教授の答えはこうだ。
これはどういう意味か。この10年間、AmazonやNetflixなどPERが80倍~100倍以上あるような企業(グロース株)が、株価上昇を続けてきた。これらの企業に投資していればよかったと、悔しい思いをしてきた投資家も多くいるだろう。しかし、だからといって一般投資家がPER20倍や30倍の企業への投資をやめて、高PER企業への投資に切り替えようとするのはオススメしない、ということだ。シーゲル教授の研究データでは、長期でみればPERが低い銘柄(バリュー株)ほど株式投資の利益が多く出ているのだ。
シーゲル教授は去年9月の時点で「FRBが金利を下げれば、金利のつかない債券の魅力が下がり、高い配当がもらえる割安な株を保有しようと考える人が増えるだろう」と私たちに語っていた。そして、その後、コロナ相場となり、現在FRBは金利を引き下げた。今年5月、シーゲル教授と電話で話した時には、「今、大量の現金が国民の財布に投入されているため、数年後に3%~4%のインフレがくる。その時に、株投資が最も恩恵を受けるだろう」と話していた。今後、米国では低PERの割安株が日の目を見るかもしれない。
私がこの記事でお伝えしたかったことは、コロナ相場の今、米国株投資という選択肢は悪くないだろうということ、そして、米国個別企業に投資をする場合はPERが高い企業と低い企業をそれぞれ比較し、しっかりと考えてほしいということだ。人気であがっている株はいつか人気が消滅すると下落に転じる。長期で投資に勝ちたい人にとって、今回の記事が少しでも参考になれば幸いだ。