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ボーナス激減、サラリーマン大貧困時代に突入するのか
今年の夏のボーナスはコロナ禍の影響で昨年よりも各業種で下回った。
経団連の大手企業調査(6月17日、86社)によると、前年比6.0%減の92万5947円だった。ほとんどの業種でマイナスになっているが、下げ幅が最も大きかったのは鉄鋼の25.01%減の56万9679円。次いで化学の6.36%減の89万6237円。自動車も4.14%減の98万760円だった。製造業は軒並み総崩れとなっている。
集計数の多い日本経済新聞の調査(6月25日、429社)でも前年比5.37%減の80万7835円。全29業種の6割強にあたる19業種で支給額が減った。
製造業全体は前年比5.86%減だが、ここでも鉄鋼は前年比23.99%減と大幅なマイナスになった。鉄鋼はコロナ前から鋼材需要が減少し、中国企業の増産で最大手の日本製鉄は2020年3月期決算で最終赤字に転落し、コロナ禍を受けてさらに需要が減少している。
製造業は総じて低調だったのに対して、明暗を分けたのが非製造業だ。コロナ禍の影響を直接受けた鉄道・バス、百貨店・スーパー、陸運、外食・その他サービスはマイナスとなった。
一方、前年比プラスとなったのは建設、不動産・住宅、商社、通信、情報・ソフトなどだったが、後述するように今回プラスとなった業種も2020年冬のボーナス以降はかなり厳しくなると見られている。
「一時休業のダメージが大」中小企業は大手以上に厳しい状況
夏のボーナスは2013年以降プラスに転じ、この5~6年間は好調が続いたので、下がったことにショックを受けた人もいるかもしれない。
しかし、考えてみれば毎月の固定給である月給と違い、会社業績しだいで増減する変動給だ。
1990年代までは給与プラス平均5カ月のボーナスの年間17カ月の支給という時代が続いた。2000年以降は、給与を増やさない代わりに会社が儲かった分はボーナスに反映する流れが主流になった。それにより、不況期になると減少し、赤字になると支給額ゼロになることも珍しくなくなった。
冒頭で紹介したのは大手企業の夏のボーナスの状況だが、中小企業はどうか。
大阪シティ信用金庫が取引先の夏のボーナスを調査(991社)したところ、夏のボーナスを支給する企業は50.4%と前年比9.4ポイント減となり、リーマン・ショック後の2009年6月調査(8.9ポイント減)を上回った。支給する企業でも金額は27万8946円で前年比5.1%のマイナスとなった。前年比プラスは建設業のみで、とくに卸売業、製造業は大幅減となっている。
中小企業のボーナスの不支給や減少の背景には、自動車産業など大手企業の業績不振を受けた受注減による休業の影響もある。
自動車部品メーカー関連中小企業「ボーナスを支払える状況ではない」
中小の製造業を中心に構成するものづくり産業労働組合JAM(組合員35万人)では傘下組合の3分の1(574組合)が一時休業に入るなど甚大な影響を受けている。3月の一時休業は75組合だったが、4月に391組合に急増し、5月に新たに190組合が加わった。
JAMには自動車部品メーカーなど関連企業が多い。自動車大手の2020年3月期決算はコロナショックの影響で5社が営業減益。中でも日産自動車は6712億円の赤字に転落した。
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自動車各社は本年度も景気悪化を予測し、生産台数を大幅に減らす計画を表明。関連産業や中小企業への影響は必至と見られていた。
同労組の担当者は「(一時休業の措置をとる企業は)3月はそれほどでもなく、4月に増加するのではと警戒していたがいきなり跳ね上がった。5月までの累計で574単組というのはリーマン・ショックのときとほぼ同数になっている」と指摘する。
業種別でも輸送機器が200単組中105単組で52.5%と半数が休業、一般機械が640単組中219単組で34.2%が休業に入っている。とてもボーナスを支払える余裕のない企業も多い。
今夏のボーナスまではちゃんと支払うが、それ以降はわからない
それでも大手企業の夏のボーナスは5~6%減にとどまった。その理由は、原則として夏のボーナスは前年下期の業績(2020年3月期決算)が反映され、コロナ禍の影響がそれほどなかったこと、また、今年の春闘の労使交渉ですでに決定していたことが影響している。
今後の業績の見通しが悪くても、とりあえず夏のボーナスは報いてやろうという企業も多かった。
たとえば大手製造業の人事担当者は「事業部によっては、コロナの影響で売り上げは大打撃を受けているが、他の部門で利益を何とか確保できたので現状維持となる。ただし、次回以降は厳しくなることが予想されるので、今回は従業員に応えていきたい」と語っている。
つまり、夏のボーナスまではちゃんと支払うが、それ以降はわからないということだ。
別の製造業の人事担当者は「2019年度の下期は、ほぼ計画通りの利益を達成したので約束通り支払う。しかし2020年冬はかなり厳しい見通しだ」と言い切る。
「2020冬以降のボーナスは記録的なマイナスになるだろう」
ある意味で当然だろう。
冬のボーナスは今年4~9月の業績が反映される。4月以降、緊急事態宣言による外出自粛による消費の冷え込みが企業業績を直撃した。また、解除後も経済の水準は低迷したままだ。
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これは、コロナの直撃を受けている航空、観光・旅行、宿泊、飲食などにとどまらない。財務省が7月20日に発表した今年上半期の貿易統計で輸出額は前年同期に比べて15.4%減となり、4~6月の3カ月連続で前年同月比20%超も落ち込んでいる。とくに基幹産業の自動車は上半期で30.9%減も低下している。
一方、トヨタなどが7月に入って徐々に生産計画を引き上げつつある。しかし仮に経済が再開しても賃金などは遅れて影響が出るのが一般的だ。
エコノミストの中には今年の冬や来年の夏のボーナスは2桁減と、08年のリーマン・ショック後の夏のボーナス以来の低さになると見る向きもある。JTBはすでに1989年以降初めてとなる冬のボーナスを支給しない方針を明らかにしている。
日本総合研究所の山田久副理事長は経済が再開しても新型コロナウイルスのワクチンが開発・普及するまではコロナ前の経済の水準に戻ることはないと言う。
「元に戻らない状態が最低1年続くと見ている。当然企業は売り上げが落ちることになるが、生き延びるためにコストを下げざるをえない。コストを下げるには給与カットは当然のこと、ボーナスは記録的なマイナスになるだろう」
夏のボーナス前年比増の業種も冬ボーナスは……
今年の冬以降、文字通りボーナス冬の時代がしばらく続くことになる。もちろんコロナの直撃を受けた企業にとどまらない。夏のボーナスで15.14%増の建設、7.55%増の不動産・住宅(日本経済新聞調査)も例外ではない。
住宅関連メーカーの人事担当者はこう語る。
「今年3月までは業績は好調だったが、4月以降、状況がガラリと変わり、受注が低迷している。すでに固定費削減の指示が経営から出ているが、真っ先に対象になるのが冬の賞与。次が2022年卒の新卒採用数の削減におよんでくるだろう」
もともと建設・不動産業界は2020年の東京オリンピックまでは経済好調との前提で攻めの事業計画を推進してきた。しかしオリンピック前にコロナがストップをかけた。
すでに「オリンピックなし」を前提にした事業計画の見直しを始めている企業も少なくない。
同じく夏のボーナス増の総合商社も2020年3月期決算では大手7社のうち5社が減益・赤字となった。4月以降は収益基盤の鉄鋼、自動車部門が低迷している。冬以降は夏のボーナス以上に望めないのは確実だ。
ボーナスだけではない。給与激減、残業代カットも必至
話はボーナスだけにとどまらない。さらに深刻なのが毎月の給与の減少だ。とくに給与の補塡ほてんの役割を果たしていた残業代が減少の一途をたどっている。
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(一般労働者)によると、所定外給与、いわゆる残業代は今年3月に前年同月比4.0%減、4月12.8%減だったが、5月は26.2%減となった。当然、残業時間が減ったことによるが、5月の残業時間は前年同月比30.7%減となっている。
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もちろんその理由はコロナ禍による在宅勤務が増えたことによる影響がある。在宅勤務でも残業すれば会社は残業代を支給する必要があるが、在宅勤務の残業を原則禁止としている企業もある。社員も残業代を申請しづらいという事情もある。また、出社制限が緩和されても、業績低迷の企業が真っ先に削減対象にするのが残業代である。今後は残業代を当てにすることが難しくなるだろう。
毎月3万~5万円もらっていた残業代が大幅に減少し、さらにボーナスも大幅に減らされていく。企業業績しだいではさらなる給与カットも発生するかもしれない。
先が見えないサラリーマン貧困時代が訪れようとしている。どのようにして生き延びていくのか、生活防衛策を真剣に考えるべき時期にきている。
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