Zcashがハードフォークに成功
プライバシー重視の仮想通貨Zcash(ZEC)が、7月16日、4回目となるハードフォークに成功した。「Heartwood」と名付けられた大型アップグレードは、相互運用性とプライバシーを向上させる設計となっており、マイナーが匿名性のあるアドレスで採掘報酬を受け取ることを可能にした。
Heartwoodの特徴
Zcashの最新ハードフォーク「Heartwood」は、Electric Coin Company(ECC)とZcash財団により支持され、ブロック高903,000で実行された。ネットワークの主な改良点は二つあり、Zcash改善提案(ZIP)221「FlyClient」とZIP-213「Shielded Coinbase(遮断された採掘報酬)」が採用されている。なお、下位互換性がないため、全ノードがアップグレードする必要がある。
FlyClient
FlyClientは、ネットワーク容量、ライトクライアント(フルノードの役割が軽減されたノード)のサポート、スケーラビリティを向上させる技術。クロスチェーンの相互運用性とモバイルウォレットの機能性を向上させることで、Zcashの実用性と市場の拡大を目指す。
ZcashのようなPoWプロトコルの場合、ブロックチェーンの全履歴をダウンロードし検証するには、莫大な時間と演算力が必要となるため、フルノードに頼らない検証の方法として、各ブロックのブロックヘッダーのみをダウンロードし、関係のあるトランザクションだけを検証するFlyClientが開発された。
FlyClientは主にスマートフォンを使用しているライトクライアントに、より効率的なトランザクション検証方法を提供するため、多くのユースケースが考えられる。例えば、イーサリアムと互換性のあるZECトークンであるtZECは、イーサリアム・スマートコントラクトの内部にZcashブロックチェーンのライトクライアントによる検証を実装することが可能だという。
ECCは昨年10月に開催されたイーサリアム開発者向けのカンフェレンス「DevCon5」で、イーサリアムとの相互運用プロジェクトを構築する計画を発表していた。
Shielded Coinbase=マイニング報酬を匿名アドレスで受領
今回のアップブレードに含まれている二つめのZIPは、Zcash のコンセンサスルールを変更し、マイニングプールおよびマイナーがシールドされた(=匿名性を持つ)アドレスでマイニング報酬を受け取ることができるようにするもの。プライバシーを高めるソリューションとして注目される。
このシールド・コインベース(匿名マイニング報酬)という概念は、Zcashプロジェクトの開始時からロードマップに記載されていたが、その実現には、2018年10月に行われた2度目のアップグレード「Sapling」など、いくつかのステップを踏む必要があったという。
なお、この機能は、マイナーへのオプションとして提供され、マイニングプールや独立したマイナーは、報酬を受け取るアドレスの匿名機能の有無を選択することが可能になる。
「匿名性はセキュリティ」
Zcashはその創設から「匿名性」に重きを置いてきた仮想通貨だ。「ゼロ知識証明」技術により匿名性をもたらすZcashの共同創設者でECCのCEO、Zooko Wilcoxは、サイファーパンクとしても名を馳せているが、一貫してインターネット上におけるプライバシーの重要性を主張している。
弊社が行ったインタビューでは、匿名性とはプライバシー保護であり、プライバシーの侵害は「セキュリティ」上の懸念につながるとして、「匿名性=セキュリティ」と捉えていると述べた。
インターネット上の情報が暗号化されていなかったインターネット初期(HTTP)と、「HTTPS」の開発によりインターネット利用者保護が可能になった現在を例にとり、仮想通貨でも同様のこと、つまりプライバシー保護の動きが起きるだろうとWilcoxは予測している。
米大手取引所コインベースCEOのBrian Armstrongも、同じ考えを共有しているようだ。 電子商取引を可能にするためにはインターネットの暗号化が必要であり、当初の規制当局の懸念にもかかわらず、そのスタンダードがHTTPからHTTPSに移行したことは、プライバシー通貨へのシフトを想起させるとしている。
FATFのトラベルルールなど、規制当局がマネーロンダリング防止対策として顧客確認の重要性を強調する中、個人の金融プライバシー保護とのバランスをどのように確立していくのかという意味でも、匿名通貨の進展の動きは注目に値する。
出典:Zcash
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