感染拡大をすべて中国のせいにしたいトランプ米大統領
「犬猿の仲」とはまさにこの2人を指すのだと思う。アメリカのトランプ大統領と中国の習近平(シー・チンピン)国家主席のことである。さしずめ、ツイッターでよく吠えるトランプ氏がイヌで、それに対して顔色も変えない狡猾な習氏がサルといったところだろう。
トランプ氏はアメリカでの感染拡大をすべて中国のせいにして11月の大統領選を乗り切ろうと画策している。習氏は巨大経済圏構想「一帯一路」を推し進め、アメリカを押しのけて世界制覇をもくろんでいる。
2人の対立が激しさを増すなか、WHO(世界保健機関)の年次総会が日本時間の5月18日午後7時から開幕した。最大の焦点は、新型コロナウイルス感染症への対応だ。194の加盟国が参加し、3密を避けてテレビ会議方式で行われた。会期も5日間から2日間に短縮された。
事務局長の母国エチオピアは中国から巨額援助を受けている
WHO総会初日の冒頭、中国の習近平氏は「中国は透明性をもって情報を提供してきた」と演説し、感染情報の隠蔽はないと反論。WHOに対しては「テドロス・アダノム事務局長の指導のもと、国際的な感染対策で多大な貢献をしてきた」と褒めたたえ、「WHOは中国寄りだ」と主張するアメリカを牽制した。
これに対し、アメリカのアレックス・アザール厚生長官は「少なくとも1カ国は、新型コロナウイルスの発生を明らかに隠そうとして透明性を保つ義務を踏みにじり、世界に大きな被害を及ぼした」と中国を攻撃。WHOについては「必要な情報を得ることに失敗した。結果的に多くの人命を犠牲にした」と批判するとともに「これまでのWHOの対応を検証し、改革する必要がある」と訴えた。アザール氏は台湾の総会参加の議論が先送りされたことも触れ、「台湾の効果的かつ模範的な防疫対応について国際社会が学ぶべきであり、参加を認めることは重要だ」と述べた。
アメリカと中国がこれだけ対立する状態で、感染拡大の防止に向けて対応をまとめることができるのか。先行きが不安である。トランプ氏の自国第一主義も、習近平氏の中国共産党一党支配政治も、私たちの未来を暗くする危険性がある。
WHOのテドロス・アダノム事務局長の母国エチオピアは中国から巨額の資金援助を受け、テドロス氏がWHOトップに選ばれたのは中国の力によるものだとの見方が強い。テドロス氏率いるWHOが批判を受ける背景には、こうした事情もある。
しかしながら、米中が対立を続ければ、パンデミック(世界的大流行)は収束しない。いまこそ、国際社会が連帯の重要性を示すべきだ。
中国は「研究所から漏れた証拠は何もない」と反論
これまでアメリカと中国はウイルスの発生源や台湾のオブザーバー資格での総会参加をめぐって対立してきた。台湾の総会参加について、中国政府は「1つの中国」の原則を譲らず、台湾の参加に強く反対。一方、アメリカは台湾の参加を支持してきた。
新型コロナウイルスの発生源については、トランプ氏は「武漢市の研究所から漏れたという強力な報告書が出る」と主張。これに対し、中国外務省の報道局長は記者会見で「証拠があると言うなら示してほしい。それを出せないのは、そもそも証拠がないからだ。発生源は科学的に研究されるべきであり、世界の著名な科学者がウイルスは自然界によるものだと説明している。研究所から漏れた証拠は何もない」と反論している。
5月18日付の産経新聞の社説(主張)は「台湾の参加を拒んでいるのは、台湾を自国の一部であるとする中国であり、要求を受け入れてきたWHOのテドロス事務局長である」と指摘し、テドロス氏を次のように批判する。
「新型コロナウイルス対策で世界をリードすべきテドロス氏には、『中国に配慮して事態を過小評価し、感染拡大を招いた』として辞任を求めるインターネット上の署名が100万人を超えている」
「日本からWHO事務局長を出すべきだ」と書く産経社説
100万人を超える世界の人々が辞任を求めていることに対し、WHOやテドロス氏は反省の色がない。年次総会の冒頭で中国の習近平氏にあのような演説をさせるのもいかがなものか。産経社説は書く。
「テドロス氏は2017年の事務局長選挙で中国から大きな後押しを受けた。出身国のエチオピアは鉄道事業などで中国から多額の経済援助を受けている。トランプ米大統領はWHOのウイルス対応が中国寄りだとして資金拠出の一時停止を決め『中国の操り人形だ』などと非難を繰り返している」
エチオピアが中国から援助を受けている事実は沙鴎一歩も前述したが、習近平氏とテドロス氏は同じ穴のムジナなのかもしれない。
産経社説は「司令塔役に信用がなければ、ウイルスとの戦いに勝利はおぼつかない。とはいえ、批判ばかりしていては何も変わらない」と書いてこう主張する。
「先進7カ国(G7)は2022年の次期事務局長選に候補者を立て、WHO正常化への役割を果たすべきだ。日本から事務局長を出すことも有力な選択肢である」
見出しも「WHOの正常化 日本から事務局長誕生を」である。
韓国も「次期事務局長」を狙っているが…
産経社説は書く。
「日本は国民皆保険制度や医薬品開発など、保健・医療分野で世界でも有数のレベルにある。途上国での医療支援経験も豊富なうえ、資金力もある。最大の資金拠出国である米国との関係も良好だ。人類全体の健康に貢献できる要素はそろっている」
「国内の新型コロナ対策は途上にあるが、WHOの葛西健・西太平洋地域事務局長を筆頭に人材はそろっている。WHOはまた、32年前に日本人が初めて国際機関のトップになった組織でもある」
しかし、日本の最大の欠点は外交力である。産経新聞の論説委員ならそこをよく分かっているはずだ。外交力に自信があれば、2年後に控えるWHOの事務局長選に向けてすでに候補者を絞り込み、国際社会に対して水面下での打診を始めているはずである。
産経社説は韓国が次期事務局長を狙っていると指摘しながらこうも主張する。
「2017年の選挙では投票前年の秋に候補者が出そろい、活動を始めた。すでに次期事務局長選挙へは韓国が『新型コロナ対策で世界的な評価を得た』として候補者を出す動きが伝えられている」
「日本がWHOのトップを狙うのであれば、選挙戦の準備が早すぎるということはない。ただちに官邸に司令部を設けて政府が一丸となり、G7各国などの支持を取り付ける必要がある」
まだ間に合う。産経社説が主張するように安倍政権は本気で国際舞台で勝負に出るべきだ。さもないと、韓国や中国に出し抜かれる。
台湾の「防疫成功」は国際社会で共有する価値がある
毎日新聞の社説(5月15日付)も「コロナ下のWHO総会 台湾参加が国際協調の道」との見出しを付けてこう主張する。
「感染症は人類共通の課題だ。素早い初期対応でコロナ封じ込めに成功した台湾の経験は国際社会が共有する価値がある。日米欧など多くの国も参加を支持している。対コロナの国際協調を重視するなら中国は参加を容認すべきだ」
沙鴎一歩も世界は台湾から防疫を学ぶべきだと考える。
「台湾では世界に先駆けてプロ野球が開幕し、学校生活も正常化した。累計の感染者は400人台、死者も1桁にとどまっている」
人口は違うが、感染対策が世界で評価されている日本でさえ、感染者は1万6000人を超え、死者は750人を突破している。それに比べて台湾はたいしたものである。
2003年のSARS禍での「70人超死亡」が教訓に
なぜ台湾は防疫に成功しているのか。毎日社説はその答えをこう書く。
「2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)禍で70人以上が死亡した教訓から敏感に反応し、昨年末に武漢で肺炎発生が伝えられるとすぐに水際対策を徹底した。ITを駆使したマスク供給や感染者追跡も効果を上げた」
SARSの教訓。やはり経験がものをいうのである。
毎日社説は書く。
「台湾は09年から16年までオブザーバー参加していたが、17年から蔡英文総統が『一つの中国』を認めないことを理由に中国が反対し、不参加が続いている」
「中国は米国がウイルスの発生源追究などを政治問題化し、国際協調を妨げていると批判する。それなら中国も台湾の参加を政治問題化して国際協調の足並みを乱すべきではあるまい」
中国は台湾に対して意固地になっている。客観的に考えて、だれが台湾と中国を「1つの国」とみなすだろうか。そう判断するのは、習近平氏をはじめとする現在の中国政府幹部ぐらいのものだろう。
「コロナ禍を機にこれまでの台湾政策を見直してはどうか」
毎日社説は「1971年の国連決議で中華人民共和国が中国の代表と認められた。台湾は国連を脱退し、WHOなどの国連機関からも追われた。しかし、中国が台湾の利益を代表すると決まったわけではない」とも指摘する。沙鴎一歩もその通りだと思う。台湾はれっきとした国家であり、中国の私物ではない。軍事力をもち、アメリカの強い支持を得ている。
最後に毎日社説は主張する。
「20日には蔡(英文)総統の2期目の任期が始まる。習近平政権は蔡政権への外交、軍事的圧力を強めてきたが、台湾の反発を高めるだけだった。コロナ禍を機にこれまでの台湾政策を見直してはどうか」
中国の台湾政策の見直し。大賛成である。香港も度重なる民主化デモによって1国2制度が崩壊寸前だ。中国は台湾に対しても、この1国2制度を押し付けようとしてきたが、そんな思惑に乗るような台湾ではない。中国の習近平氏は思い知るべきである。
コメント